第20話


 翌朝目を覚ますと絆はすでに起きていてベットに腰掛けていた。 


「おはよう」


「‥‥‥」


 俺が起きたのを確認するとドアの方に向かう絆。

 相当怒ってるのか、口を聞いてくれない。


 俺たちはホテルを出て駅まで歩いた。


 絆は帰るまでずっと無言のまま。

 俺は昨日の事を思い返していた。


 後先考えずに突っ走った事を後悔すると同時に、昨日の絆は俺を受け入れてくれたと思っていいのだろうかと考えていた。

 

 地元の駅に着くと絆はそそくさと帰ってしまった。


 仕方なく俺も家に帰ると、親にこっ酷く怒られ、調子に乗るなと言われた。


 確かに昨日の俺は調子に乗っていた。


 ドラマの見過ぎと言われればそれまでだが、絆と駆け落ちでもしようと思っていたぐらいだ。


 もっと現実を見て行動しなければ。


 今頃絆はどうなっているのだろうか。

 俺のせいで追い出されていればうちに来てもらうか‥‥。

 

 そうなれば俺としてはラッキーだが、石原さんの性格を考えれば一筋縄ではいかなそうだ。


 俺は用意をして学校に向かう。


 石原さんに会えば何か言われるに違いない。

 でも俺も文句を言ってやろうと考えていた。絆の事をどうするつもりだと。


 しかし、結局その日石原さんは学校を休んでいた。


 それから数日経つも、姿を現さない石原さん。

 もしかして俺が近づかないように絆に張り付いてるとか?

 あり得る。

 

 俺は石原さんちに行ってみる事にした。

 もちろん簡単に会えるとは思っていなかったが、居ても立ってもいられなかった。

 


 石原さんちのインターフォンを押す。


 誰が出てくるのかロシアンルーレットのような感覚だ。



 そして、出て来たのは石原さんだった。


「悟くん、何の用かな?」


 石原さんは何故か機嫌が良さそうだ。


「絆、の事なんだけど」


「あぁ、絆なら仕事行ってるよ」


「石原さんは本当に絆が好きなの?」


「もちろん大好きだよ!」


 なんか気持ち悪ささえ感じる石原さんの表情に俺は、ここで言わないとと思った。


「絆は、多分同じ気持ちじゃないよ」


「は?何言ってるのかな?」


「だから、絆は石原さんの事好きじゃないって」


「絆が言ってたの?それは」


「ハッキリとは言ってないけど、絆を見てたら分かる」


「ふーん。でも絆は悟くんの事嫌ってるよ」


「え、そんなわけないじゃん!だって」


「だって、なに?」


「仲良かったから‥‥」


「あー絆は優しいからね。でもこの前絆の事連れ出したでしょ?すごい嫌だったみたいだよ?」


「絆がそう言ってたの?」


「うーん、ハッキリとは言ってないけど、絆を見てたら分かるよ」


 っ!あー言えばこう言う!

 俺は苛立っていた。


「とにかく、絆と別れてほしい」


「は?悟くんにそんな事言われる筋合いないんだけど?」


「でも、絆の弱みを握って家に囲うなんてあり得ないよ」


「絆が勝手にそうしたいって言ってるだけだよ。出ていきたいとか聞いた事もないけどな」


「それは言えるような状況じゃないからで、石原さんから言ってもらえたら」


「だから!悟くんがなんで口突っ込むかな」


「俺は‥‥」


 石原さんは呆れた様子でドアをバタンと閉めてしまった。


 結局俺はそのまま家の近くで絆が帰ってくるのを待っていたものの、姿を現す事はなかった。


 仕事に行ってるとか嘘で家にずっといたのだろう。


 本当に囲われてしまった、俺のせいだ。


 これからどうしたら‥‥。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る