サンドイッチのレタスになりたい人生だった。

@cakucaku

第1話 


「早くしてよー」


 生暖かい風が肌に張り付く夏の夕方。


 玄関の前で膝をカクカクさせながら、その苛立ちをアピールするかのように言ってきているのは高校の同級生の東 絆だ。


「ごめん!シャワー浴びてた!」


 俺は仏間 悟だ。


 絆と約束していた時間を大幅に過ぎていたが、俺は部活終わりの臭い体で出掛けるのが嫌だった為急いで体を洗った。



「もう閉まっちゃうじゃん!」


「わかった、わかった!急ぐから!」


 俺は自転車の後ろに絆を乗せて出発した。



「あーセミが鳴いてるー」


 一生懸命漕いでいる俺の後ろで絆が呟いた。


「セミって寿命短いんだぜ?」


「そんな事知ってるよー、バカにしてんの?」


「でもこれは知らないだろ?セミは幼虫の時は10年以上も土の中で生きてるんだぜ?」


「へーだから?」


「絶対知らなかっただろー!」


「虫興味ないしー」


「虫じゃないしー昆虫だしー」


「もーそんな事いいから前見てよ!」



 俺は絆といつまでもこうやっているのが当たり前だと思っていた。




「はい、着きましたよ」


「ご苦労さんー」


 着くと同時にスッと自転車の荷台から降りる絆。



 俺達が来たのは、なんでもすごく当たるという占いの館だ。



 絆はこうゆう類が大好きだ。



 いかにもな雰囲気の古い平屋の前にちらほら人がいる。


 玄関を入った所に名前を書いて、順番がくるの外で待つ。



「人多いな」


「当たり前じゃん!ここ前から気になってたんだよねー」


「で、なに占ってもらうの?」


「そりゃ決まってんじゃん、恋愛の事だよ!」


「それ聞いてどうすんの?」


「今年中には恋人作るんだ!」


「ふ〜ん」


「なに?少しは興味持ってよ!」


 絆はほっぺを膨らますのが癖だ。


 俺達が外で話をしていると、玄関の戸が開いた。


「東様〜どうぞ中へ」


「はい」


 玄関で靴を脱ぎ、スタッフのような人について奥まで進む。

 突き当たりの部屋に入るよう言われた俺達は軽くノックをして入った。


「失礼します」


  

 そこには少し大きめの机と手前に座布団が二つ並んで置いてあり、机の向こう側に占い師であろう人が座っていた。


 占い師は、よくテレビなどで見るような布を被り口元も布で隠して目だけが見える状態だ。


「どうぞ、お座りください」


 俺は左、絆は右に座る。


「では、何を占いましょうか」


「恋愛運をお願いします!今年中に恋人が出来るか知りたいです!」


「分かりました、ではこの水晶で見てみましょう」


 俺はなんとも胡散臭く感じたが、黙って聞く事にした。


「あなたの恋愛運は‥‥。はい、見えました」


「はい!」


「今年中、いや、すぐにでも出来るでしょう」


「え?ほんとですか!ちなみにどんな人ですか?」


「それは‥‥あなたととても親しい間柄の人です」


「て事はもう出会ってるって事ですよね。その人の特徴とか分かりますか?」


「うーん。残念ながらあなたのタイプではないようです。しかし、相手の猛アタックで付き合う事になるでしょう」


「え、タイプじゃないんだ。でも猛アタックしてくる程好きそうな人なんて検討つかないな」


「でも一つ、気をつけて欲しい事があります」


「なんですか?」


「そのお相手の事が好きじゃなくなっても決して別れたらだめですよ」


「どうゆう事ですか?好きじゃないのに付き合い続けろって?」


「そうです。最初は恋人欲しさに付き合う事になりますが、やはりタイプではない為だんだんと気持ちが冷めてきます。でもそこで別れてしまうと一生後悔する事になるでしょう」


「後悔するって何をですか?」


「それは言えませんが、そのお相手と一生付き合うか、告白を断って一生恋人が出来ずに過ごすかのどちらかです」


「告白を断ったら一生恋人出来ないんですか?」


「そうです」


「極端過ぎやしません?もっと色んな人と付き合ったりする事は無理なんですか?」


「今のあなたでは無理ですね」


「今のって事は変わる事もあるんですね?」


「もちろんですよ、あなたの思考や見る角度が変われば自ずと進む道も変わってきますよ」


「じゃあどうすれば?」


「まだそれを知るには経験が足りませんね。それに思考を変えるのは自分で気づく事で初めてわかる事なので他人の言葉は無意味です」


「そ、そうですか」


 絆はえらく落ち込んでいる。


「他に聞きたい事はありますか?」


「今日はもう大丈夫です。ありがとうございました」


「では、あなたにとってのいい人生を願っています」



 帰りは絆が歩きたいと言うので、俺は自転車を押しながら帰る事にした。


「まあ元気だしなよ!たかが占いだよ?」


「あんな事言われて落ち込まない方がおかしいよ」


「でもすごく胡散臭かったしさ!」


「あの占い師、当たるって噂なんだよ。だから行ったのに」


「あっ、そうだ!違う占い師に見てもらうのはどう?俺付き合うからさ!調べてみたら?」


「そうだね!みんな言う事違うって事もあるし、今まであんな事言われた事ないし!」


 よかった。少し気を逸らせた。



 俺達は途中まで帰ると解散してそれぞれ家路に就いた。



 あー地味に疲れたな。


 でもあの占い師、胡散臭さはあったけど内容は妙に信じてしまいそうになるような変な気持ちになったなぁ。絆には言えないけど。


 俺も一回行ってみようかな。


 

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