第8話



「ちょ、美波ちゃん?」


「嫌ですか‥‥?」


「‥‥嫌というか。美波ちゃんって大胆なんだね」


「だって憧れの悟くんとこんなシュチュエーションなんて私‥‥我慢できません」


「美波ちゃん‥‥ごめん」


 俺はそっと美波ちゃんの体を離した。


「‥‥悟くん?」


「俺もね、一応男だから美波ちゃんみたいに可愛い子にこんな事されて普通でいられないよ。でもまだお互いよく知らないままで勢いだけでするのも女の子に対して失礼かなって思うから」


「私はそうして欲しいんですよ。悟くんの事大好きだから」


「気持ちは嬉しいよ。でも楽しみは取っておくよ」


「わかりました‥‥」


 あー、美波ちゃん明らかにテンション下がってるな。でも経験ないから出来ないとは言えないし‥‥。


「あ、お腹空かない?なんか食べに行こうよ!」


「そうですね」


 俺たちは一旦浜辺に戻り、タオルを美波ちゃんの肩にかけると、海の家で焼きそばやカレーなどを食べて食事を済ませた。


「あーお腹いっぱいです!やっぱり海の家で食べると何故か美味しく感じますよね!」


「そうだね」


 美波ちゃんのテンションも元に戻ったみたいでよかった。


「あれ?あれって悟くんの友達じゃないですか?」


 美波ちゃんの指差す方を見てみると、そこには絆と石原さんの姿があった。


「本当だ。おーい!絆〜」


 俺は絆に手を振ると、こちらに気付いたようでこっちに向かってきた絆と石原さん。


「悟も来てたんだ!奇遇だね」


「絆はいつきたの?」


「朝から来てるよ、よかったら一緒に遊ぼうよ!」


「絆がそう言ってるんだけど、美波ちゃんはどうかな?」


「私は全然いいですよ!」


 美波ちゃんがいいと言ってくれたので午後からは四人で遊ぶ事になった。


俺たちのシートの横に絆たちもシートを並べて敷き、四人で座る。


「そうだ!悟くん、一緒に飲み物買いに行かない?」


 石原さんが何故か俺を誘ってきた。


「別にいいけど、美波ちゃん行ってきてもいいかな?」


「あ、わかりました」



 そして何故か俺と石原さんの二人で飲み物を買いに行く事になった。


 途中で石原さんは徐にポッケからタバコを出して吸い出した。


「ちょ!石原さん!ダメだよ」


「なに真面目ぶってんの?あのさ、ちょっと話があったから一緒に来てもらったんだけどいい?」


 え、さっきと態度が全然違うじゃん。

 石原さんってこんな人だったんだ。

 俺は驚いた。


「話?」


「今さ、絆うちにいるんだ」


「うちって石原さんのうちに?」


「そう、一緒に住んでるって言ったほうがいいかな」


 石原さんは慣れた手つきでタバコをふかす。



「‥‥一緒に住んでんの?なんで?」


「色々事情があって絆の家が大変なんだ、それでしばらく両親が不在だからうちに来てもらってる」


「両親が不在だからって子供じゃないんだから何も石原さんの家にいる理由なんてないんじゃ」


「事情があるって言ったでしょ」


「なにその事情って」


「デリケートな問題だから言えないよ。絆も言って欲しくないと思うし」


 そんな事言われたらこれ以上聞けないじゃんかよ。

 俺はモヤモヤしていた。


「‥‥それが話?」


「悟くんはさ、いつも絆と一緒だったよね。ずっと羨ましいと思って見てた」


「うん?」


 一体何が言いたいんだ。



「二人を見ているうちに気付けば絆を好きになってた。でも自分には勿体ないくらいの人だなとも思った」


「‥‥で?」



「絆と今後一切関わらないでほしい」




「え、なんで?」


「悟くんの絆を見る目が普通じゃない。特別な感情があるように見える」


 俺は一瞬ドキッとしたが、悟られるわけにはいかない。


「いや、俺は彼女もいるし、そんなのありえないから」


「でもそれが絆の為でもあるんだよ。絆の幸せを願うなら約束して欲しい」


「絆の為?なんでそんな約束‥‥」


「ちゃんと言ったからね」


 石原さんはそう言うと行ってしまった。



 意味がわからない。

 俺は納得いくわけがなかった。




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