第25話


 しばらくして絆が美波ちゃんと付き合っているという噂を耳にした。


 楽しかったはずの学校も今では居場所がない。

 俺は絆のお陰で普通に生活出来ていたんだった。


 俺もいっそ学校辞めちゃおうかな。

 そんな事を考えながら一人寂しくぼーっとしていた時だった。


 なにやら視線を感じた俺は廊下の方に目を向けた。

 そこには石原さんが立っていて、俺に手招きしている。


 俺は正直もう関係ないしむしろ恨みすら持っていた為、一瞬無視しようかとも考えた。

 しかし、なんで呼ぶのか気になってる自分もいた俺は渋々行く事にした。


「なに?」


「ここじゃあれだからちょっと来て」


 石原さんはそう言うとどこかに向かって歩いて行った。


 仕方なく着いていく。

 

 結局校舎裏の人気のない所に連れて行かれた俺は言った。


「こんな所まで来てなんのつもり?」


「ありがとう」


 俺は耳を疑った。

 石原さんがありがとうと言った?

 何か企んでるのか、絆の復讐か?


「何がありがとうなんだよ」


「実はあの後、親に言われて目が覚めた。

あんなやつらと付き合っていても自分の為にならないって。だから別れた」


「ふーん。そう。よかったね」


 どうでもよかった。

 俺にとっては石原さんが誰と付き合って、別れようと。絆の事がなかったら喋る事さえなかったと思う。

 

「それと、言いたい事があって」


「まだ何かあるの」


「悟くんの彼女が前ホテル街で私と彼氏を見たって言ったじゃん。実はその時私もその子の事見かけてたんだ」


「美波ちゃんの事?」


「そう」


「それが何?」


「その時その子は男とホテルに入って行ってたよ」


 それを聞いた俺は驚いたと同時に妙に腑に落ちた。


 "ホテル街で石原さんを見た"

 太ると言ったら

 "悟くんまで"

 と言った。


 その他にも、ん?と思う事が多々あった。

 絆は今美波ちゃんと付き合ってる。

 

 もういいか。


 俺は絆の事ばかり考える事に疲れていた。


「悟くんの事なんかどうでもよかったからその時は言わなかったけど、今となっては悟くんの男気に少し見直しているんだ」


「そう」



「それで‥‥その‥‥お互い散々だったし、これからは仲良くしない?」


 石原さんは少し恥ずかしそうに俺を見つめている。

 初めて見る意外な姿に俺は不覚にもキュンとしてしまった。


「で、でも絆の事許した訳じゃないし‥‥」


「分かってる。自分でも馬鹿だったと思ってる。でも悟くんが目を覚まさせてくれたんだよ。初めて会った大人殴るなんて中々出来ないよ」


 そうだ。いつまでも絆の事を引きずっていても振り向いてはくれない。

 俺も先に進まないとダメなのかな。


「友達としてなら」


「本当?ありがとう!」


 石原さんってこんなに可愛く笑うんだ。


 つくづく俺は単純な男だと思った。

 でも、もしかしたら心に出来た隙間を埋めてくれるのは石原さんなのかもしれないと。

 希望を持っても罰は当たらないはずだ。


 そう思った俺は石原さんと友達として付き合う事にした。



 石原さんとの学校生活は意外と楽しく話も合うし、こんな可愛らしい子だったんだと印象が変わった。


 石原さんは美波ちゃんみたいに女って言う感じはなく、どきどきするような事もないが、たまに見せる女の子らしい姿にギャップを感じて魅力的だ。


 俺はどんどん石原さん、いや、はるかに対して恋が芽生えていった。


 はるかもまた同じ気持ちだったらしく、俺たちは晴れて付き合う事になった。


 デートの時、手作りのランチを作ってきてくれたはるか。


 ベンチに座って二人で食べる。

 はるかはサンドイッチのレタスが大好きらしく美味しそうに頬張っている。



「悟ってなんかレタスみたいだよね」


「俺がレタス?なんで?」


「主役だと本人は思ってるけど、実は脇役だった、みたいな?」


「ハハッなにそれ?ひどいなー」


「でも私はそんな所が好きだけどね。私色に染めれそうじゃん」


 そう言いながら俺に口づけをしたはるかはとても優しかった。



 絆とは会う事はなくなったけど俺の初恋。


 あんなに苦い恋をしたのはある意味いい思い出だ。



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サンドイッチのレタスになりたい人生だった。 @cakucaku

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