第24話
翌日は普通に学校に行った。
どうせ石原さんは来ていないだろうと思っていたからだ。
結局その後一週間ほどは特に変わった事もなく、むしろ嵐の前の静けさのようだった。
しかし、俺の予想を裏切る出来事が起きた。
俺の携帯に絆から着信があったのだ。
「もしもし!電話とかしても大丈夫なの?」
「ごめん悟。今出てこれる?」
どうやら絆は家の外にいたらしく俺は速攻で飛び出した。
そこには少し痩せたような絆の姿があった。
今どんな状況なのか、何て声をかけたらいいのか分からずにいた俺に絆はこう声をかけた。
「悟、ありがとう」
「ありがとうって」
「石原さんの事だよ」
「絆はどこまで知ってるの?」
「社長から全部聞いたよ。悟が殴った事も」
「そうなんだ。でもどうしてここに?」
「石原さんと別れたから」
「そうなの?」
俺は驚いた。
どこかで半分諦めてる自分がいたから。
石原さんの父親は、悟の話を聞いた後、調べてみると、悟の言っていた事が本当だったと知り、絆は無事解放されたらしい。
お詫びに工場の事も助けてもらったと。
「じゃあ俺の気持ちを受け取ってくれるって事だよね?」
「その事なんだけど‥‥。前も言ったけど、悟の気持ちには応えられない」
「でも石原さんとは別れたし、俺も絆の為に美波ちゃんと別れたんだよ?」
「本当にごめん!」
絆は俺に向かって頭を下げてきた。
納得いくわけない。
しかし、絆の頭を下げている姿になんだか虚しくなったのも確かだ。
「俺の事‥‥嫌い?」
「嫌いなわけないじゃん。ただ‥‥本当に友達としか思えない。それに」
「それに?」
「実は‥‥好きな人がいる」
「え、い、いつから?てか石原さんの事?」
「石原さんじゃないよ。悟には言わないでおこうと思ったけど、悟のお陰で石原さんと別れられたし一応ケジメとして伝えておくよ」
「‥‥ケジメ?」
「うん。好きな人ってのは美波ちゃんなんだ」
俺には全く理解が出来なかった。
絆が美波ちゃんの事?いつから?そもそも接点なんてないはず。
まさか、俺も浮気されてたって事?
パニックになっている俺に絆は説明してくれた。
きっかけは海で俺たちに会った時だったらしい。
海で俺が石原さんに誘われて飲み物を買いに行き、絆と美波ちゃんが二人っきりになっていた時に美波ちゃんにこう言われたと。
"ずっと絆さんの事が好きでした"
絆も最初は冗談だと思っていたが、こう言われたらしい。
実は最初から好きだったのは絆さんだった。しかし石原さんと付き合い出して嫉妬して悟に近づいたと言われたらしい。
苛立ちを感じたが、美波ちゃんの真剣な眼差しに、怒れなかったらしく、この子は本気で自分の事を好きなんだと感じたと。
しかし、無理だとその時は断ったらしい。
その後も学校で会ってはよく見られていたと。
俺は気付いた。美波ちゃんは俺の事見てたんじゃなかったんだ。
「しばらく色々あったし学校も辞めて美波ちゃんと会う事もなかったけど、あの時の美波ちゃんがずっと頭の中に残っていて、忘れられなかった」
「男は結局みんな美波ちゃんの虜になるんだな」
「でも、悟の事は最初から友達って言ったじゃん」
「それは俺に彼女がいたから気を使ってたのかと思ってた」
「これから美波ちゃんに会いに行こうと思ってる。占い通り、自分が変わると未来も変わるんだよ。悟ももっと周りを見た方がいいよ」
「それ誰かにも言われたわ。全部俺の勘違いだったんだね」
「ごめん」
俺は返す言葉もなく考える気力もなかった。
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