第7話


 夏休みになり、忙しく過ごしていたある日。


 俺の携帯が鳴る。


 電話の相手は美波ちゃんで、次の休みは海に行く事になった。



 美波ちゃんの水着ってどんなんだろう。


 前日の夜、俺はてるてる坊主なんか作ったりして、地味に楽しみだった。


 朝いつもより早く目が覚めた俺は真っ先にカーテンを開けた。


 眩しっ。


 雲一つない晴天だった。


 予報でも晴れと言っていたので当たり前と言えば当たり前だが、こんなにワクワクするなんて小さい時に行った遊園地を思い出す。


 

 美波ちゃんとは駅で待ち合わせをした。


 暑いな、絶好の海日和だ。

 俺は先に着いて美波ちゃんを待っていた。

 


「悟くん!お待たせ〜!」


 美波ちゃんの私服姿は俺には眩しいくらいキラキラして見えた。


 俺たちは電車に乗り、海のある所まで向かう。


 女の子と出かけるなんて初めてだ、しかも初デートが海だなんて俺にはハードルが高い気が‥‥。


「楽しみですね!」


 美波ちゃんが笑顔で俺に言ってきた。


「そ、そうだね」


「あれ?悟くんなんか緊張してます?」


「美波ちゃんはデートとか慣れてる感じだね」


「そんな事ないですよ!今までの彼氏と悟くんとでは全然違いますよ!」


「そんなもんなのかなぁ」


 女の子に免疫がない俺は初めての彼女が美波ちゃんでよかったと思っていた。美波ちゃんは年下なのに俺を引っ張って行ってくれるような頼もしさがあった。



 海に着いた俺たちはそれぞれ着替える為に一旦更衣室に向かった。


 男の俺は着替えるのが早いから必然的に待つ事になる。


 太陽がじりじりと肌を焼いている。

 暑いなぁ、そんな事ばかり考えていた時美波ちゃんの声が聞こえた。



「遅くなりました!」


 そこにいたのは水着姿の美波ちゃんだった。


「あ、」


 俺はあるところに釘付けになってしまった。

 


「どう‥‥ですか?」


 美波ちゃんは大きなフリルのついた黒のオフショルダーの水着を着ているが、胸が上からはみ出そうになっている。

 服を着ていると分からなかったが、かなり胸が大きかったようだ。


「な、なんか上着とか着なくて大丈夫?」


「変、ですか?」


「いや、変ってゆうより視線に困るっていうか‥‥。なんか出ちゃいそうだよ?」


「私、胸が大きいのがコンプレックスなんですよね。だからオフショルなら目立たないかなって思ってこれにしたんですけど」


 まぁ確かに普通のビキニだったら横からも下からもはみ出てただろうし。


 でも男どもの視線が美波ちゃんにー!


「これ羽織っておいたら?」


 俺は持ってきていた大きめのタオルを渡した。


「ありがとうございます。なんか私から誘ったのにごめんなさい」


「いいんだよ!そんな時もあるしね!それよりシート敷こうか」


「はい、あっ、あそこ空いてますよ!」


 俺は持ってきていたレジャーシートを砂浜に敷いた。



「早速海入ろっか!」


「はい!」


 美波ちゃんはタオルを置いて俺と海に向かう。


「うぅっ冷たいですね!」


「本当だ、きもちー」


「それにしても人多いですね」


「そうだね、いい天気だから余計だね」


 海は人がとても多く、はしゃいで浮かれている男軍団が近くにいた。



「美波ちゃん、あっち行こうよ、人少ないよ」


 俺は美波ちゃんの水着姿を他の男に見られたくなくて人の少ない場所に移動した。


 岩場の近くは足場が悪く泳ぎにくいからだろうか、端っこに行けば行く程人が少なくなっていた。


「こんな端っこまで来ちゃったね」


「なんか変な虫とか出そうじゃないですか?」


「でも、人混みはちょっとね‥‥」


「もしかして私といるの恥ずかしいですか」


「そうじゃないよ!」


「さっきからずっとキョロキョロして人目気にしてるみたいだし」


「違うよ、俺は‥‥他の男に見せたくないだけだよ」


「何をですか?」


「だから‥‥美波ちゃんの水着姿を、だよ」


「えっ」


 美波ちゃんの顔を恐る恐る見ると、顔を真っ赤にしてもじもじしていた。


 その時、俺の中で何かが熱くなるのを感じた。初めての感覚だった。


「‥‥そろそろ戻ろっか」


「でも、見られたくないんですよね」


「まぁそうだけど、よく考えたら海なんだから水着なんてみんな着てるしね」


 俺はなんとか誤魔化そうとした。


「私‥‥もっと悟くんと仲良くなりたいです」


「十分仲良いと思うよ」


「そうじゃなくて‥‥。もっと近づいてもいいですか?」


 そう言いながら美波ちゃんはじりじりと俺に近づいてくる。


「ちょっと待って!」


 俺は美波ちゃんを止めた。

 

 しかし、美波ちゃんは俺の言う事を無視してどんどん近づいてきて、ついには体をピッタリくっつけてきた。



 どうする俺!





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