第18話


 翌日俺は美波ちゃんといつものように帰っていた。

 

「今日美波ちゃんち寄ってもいいかな」


「もちろんだよ!悟くんから来たいって言ってくれるなんて嬉しいなー」


 俺は美波ちゃんに別れを告げる事にした。


 こんな気持ちで付き合い続けても傷つけるだけだと思ったから。


「おじゃまします」


「どう?悟くんの為に模様替えしたんだぁ」


「俺の為に?」


「そう!もっとくつろげるようにしたいなぁって思ってね!」


 健気に笑う美波ちゃんを前に俺は言い出せずにいた。


「美波ちゃん‥‥」


「悟くん、こっち来て!新しい布団カバーにしたんだぁ、可愛いでしょ?」


「うん、可愛いね」


「そうだ!ちょっと待ってて!」


 美波ちゃんはそう言うと部屋を出て行った。


 あぁ、言わないとな。でも気が重いな。


 五分程すると、美波ちゃんが部屋に戻ってきた。


「ん?着替えたの?」


「この服今度のデートで着ようと思って買ったから見て欲しかったの!どう?」


「うん、似合ってるよ。ところでさ、美波ちゃん‥‥」


「あ、あとね、これも買ったんだ」


 俺の話を遮るように美波ちゃんはそう言いながら服を脱ぎ出した。


「ちょっと、何してるの?」


「何って今更恥ずかしくないでしょ?」


「そうだけど」


「これも、似合ってる?」


 新しい下着に身を包んだ美波ちゃんが俺の目の前に近づいてきた。


「う、うん、似合ってるよ」


 美波ちゃんは俺の両手を取って、自分の胸に当てた。


「どう?」


「ど、どうって?」


「この下着セクシーじゃない?」


「そ、そうだね」

 

 やばい、こんな時でも反応してしまう。

 そんなつもりで来たんじゃないのに。


 ‥‥俺は負けてしまった。



「ごめん美波ちゃん、つい」


「悟くんは私の事大好きだもんね!」


 正直、心から好きだったのかは自分でも分からない。


 俺の初めてを美波ちゃんに捧げて、体はすっかり美波ちゃんの虜になっていたのは確かだ。


 でも、している最中も頭の中にいるのはいつも絆だった。


 最低な男だ俺は。

 美波ちゃんと付き合う資格はない。

 言わないと。


「美波ちゃん、実は話したい事があるんだ」


「てか、悟くん聞いて?私この前学校でナンパされたんだよ?学校でだよ?みんな私が悟くんと付き合ってるの知ってるのによくナンパ出来るよね!」


「そうなんだ‥‥。でさ、」


「あっ、それにね、この前」


「ごめん、また今度聞くからさ、今は俺の話聞いてほしい」



「また‥‥今度があるの‥‥」



「えっ」



「今度‥‥なんてないんでしょ」



 どうやら気付いていたみたいだ。

 下を向いたまま動かない美波ちゃん。


「ごめん」


「謝らないでよ。悟くん、私の体好きでしょ」


「‥‥うん」


「絆さんじゃいい事出来ないよ。それでもいいの」


「‥‥ごめん」


「やっぱり絆さんの事‥‥。一瞬でも私の事本気で思ってくれた事あるの?」


「‥‥‥」


「一瞬でも私の事で頭がいっぱいになった事、ある?」


 俺は何も言ってあげられなかった。


「やっぱり悟くんと付き合えたのは奇跡だったのかな」


「そんな事ないよ。美波ちゃんは俺には勿体無いくらいだよ」


「だからもっといい人が見つかるって言いたいの?」


「そうは言ってないけど。でも俺、美波ちゃんと付き合って、色々経験出来たし楽しかったのは本当だよ」


「一つだけわがまま言ってもいい?」


「いいよ」


「もし今後、私の体が恋しくなったら来て欲しい」


「そんな都合のいい事出来ないよ」


「私のわがままだって言ったじゃん。お願いだよ」


「‥‥わかった」


「じゃあもう帰って」


「‥‥うん。本当、ありがとう」


 多分俺は美波ちゃんと別れた事を後悔すると思う。


 でも今はまだ自分の気持ちに正直でいたい。




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