第19話


 次の日から下校時は一人で帰ることになった。


 今までは美波ちゃんが絶対待っててくれて、あのキラキラした笑顔で癒してくれて、心も体も満たしてくれた。


 学校で美波ちゃんを見かける事はない。

 多分だが、優しいからわざと俺の事を避けてるのだろう。

 

 

 そして俺は学校の帰りにそのまま石原さんちに向かった。



 躊躇う事なくインターフォンを押すと、丁度絆が出てきた。


 俺の顔を見た途端不機嫌になった絆。


「来ないでって言ったじゃん」


「話がある」


「帰って」


「帰らない。最後に来て欲しい所がある」


「無理」


「来てくれたらもう来ないから」


「‥‥約束できる?」


「約束するから」


「分かった」


 そう言うと絆はそのまま出てきた。


 俺は駅に向かった。


「そんな遠い所行くの?」


「うん」


 俺たちは電車を乗り継いで行った事もない所に向かう。



 実は無計画だった。


 俺は絆を連れ出す事で頭がいっぱいだったのだ。


「どこまで行くの?」


 適当な駅で降りて、今度は目に入ったバスに乗り、適当な所で降りる。


 最終的についた場所は中々の田舎だった。


「ごめん、実は連れて行きたい所ってのは嘘なんだ」


「は?」


 絆はもう呆れていた。


「あの家にいて欲しくない。石原さんと別れてほしい」


「だから前も言ったけど、それは無理だよ」


「無理じゃないよ。このままここで俺と暮らせばいいじゃん」


 自分でも馬鹿な事言っているなとは思いつつも、もう後戻り出来なかった。


「悟には分からないよ。親の事をほったらかして自分だけ逃げるなんて出来ない」


「絆は‥‥石原さんの事好き?」


「わからない」


 絆は俺の方を見ようとしない。


「好きなわけないよね、好きだったらそんな顔しないもん」


「悟だって、彼女いるじゃん」


「別れた」


「は?なんで?」


「絆の事が好きだからだよ!」


「好きって‥‥」


「出会った頃から好きだったんだと思う。その時はこの気持ちが本当なのか確信が持てなかったから。でも今ならハッキリわかる」


「悟の気持ちには応えられない」


「あんなに俺たち仲良かったじゃん」


「それは友達だと思ってたからだよ。恋愛感情があるなら話は別だよ」


「俺は本気だから」


「とにかく帰る」


「絆は帰れない」


「どうにかして帰るから、みんな心配してると思うし」


 絆は辺りを見回して動き出そうとしている様子だった。


「ここがどこかも分からないのにどうやって帰るつもり?」


「悟ってそんなに最低なやつだった?」


「本当、俺はどんどん嫌なやつになっていく。でもそのぐらい絆を離したくないんだよ」


「もう知らない」


 絆はそう言うと歩き出した。


 俺は黙って絆の後を着いて行くも、時間的に終電は過ぎている。


 しばらく歩くとぽろぽろと街が見え始めたが、高校生がこんな時間に出歩いていては補導されかねない。


 そこで俺は絆に言った。


「とりあえずどこか泊まれる場所探そうよ。野宿するわけにもいかないし」


「始発で帰るから」


「わかった」



 といっても泊まる場所なんてホテルぐらいしかなかった。


 俺たちは仕方なく入ることに。



「絆、シャワー浴びないの?」


「この状況でよくそんな事言えるね」


「そう、だよね」


 絆はソファでふてるように寝た。


 絆‥‥。


 俺は理性と戦っていた。


 しかし、絆の姿を見ていると、ダメだと思いながらも体が勝手に動いていた。


 ソファの横に屈むと、顔を近づけた。



「‥‥ん、なに?」

 

 絆が目を開けて言った。


「先に謝るよ」


「なんのこと‥‥」


 絆の口を塞ぐように俺はキスをした。


「ちょっと!」


 ビックリした絆は俺を突き飛ばした。


「ごめん」


「キスするなんてどうかしてる」


「どうもしてない」


 今度は絆を押し倒した。


 もう止められなかった。


「悟‥‥やめて」


「やめない。どうせ石原さんの所に帰るんだったら、俺のものにならないんだったら‥‥」


 このまま思うようにしてしまおうと思ったが、やり方が分からない。


 どうしたらいいのか分からない俺は絆を強く抱きしめた。


「俺の鼓動感じるでしょ」


「分からない」


「そう言う絆の鼓動は伝わってくるよ。どきどきしてるんでしょ」


「やめて」


 最初こそ抵抗したが、俺が抱きしめていると、だんだんと力が弱くなっていった。


「本当は俺の事好きなんじゃないの」


「自意識過剰だね」


 絆は決して好きとは言わない。

 でも俺にはわかる‥‥。



 俺たちはそのまま朝まで眠った。


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