第12話


「あ、そういえば石原さんだっけ?前海にいた人」


 美波ちゃんは俺に甘えるように腕を組み、肩に頭を乗せ、ソファでくつろいでいた。


「あぁ、絆の?それがどうしたの?」


「悟くんと海行った次の日、友達のうちに行こうと出掛けてたら見ちゃったの」


「なにを?」


「その石原さんだよ」


「そうなんだ」


 別に石原さんを見たからといって報告するほどの事でもないんだが。


「それがさ、どこで見たと思う?」


「どこ?」


「ホテル街」


「え?もしかして絆も一緒だった?」


「絆さんじゃなくて知らない人と歩いてた。しかも腕なんか組んでさ、仲良さそうな感じだったよ」


 あいつ、絆がいるのに浮気して‥‥。


「悟くん‥‥?顔怖いよ?」


「あ、ごめん。でもそれが本当なら石原さんは浮気してるって事だよね?」


「どう見ても浮気だね」


「で、その後は?見てないの?」


「その後は私も友達と合流したから見てないんだ、でも絶対何かあると思うよ」


「最低だな」


 許せない。俺は頭にきていた。


「でも誤解って事もあるし、本人に直接聞くのがいいんじゃないかな」


「聞くって石原さんに?」


「絆さんには言えないでしょ?」


 確かに絆に言うと傷つく可能性があるから言えない。

 

「でも、言うよ。俺は」


「そういえば今日近くの神社で祭りしてるらしいよ。もしかしたらいるんじゃない?」


「いるかもね、一緒に行く?」


「私はいいや、こんな格好だしね」


 美波ちゃんは少し行きたそうにしていたが、俺は早く行って石原さんを探したかった。


「わかった、ちょっと行ってみる」


 俺は神社に向かった。

 今日祭りがあるなんて初めて聞いたけど、知ってたら美波ちゃんと約束してたのになぁ。


 俺はそんな事を考えながらも石原さんの浮気疑惑をどうしても確かめたかった。



 神社に着くと、賑やかな声が響いていた。


 本当に祭りやってんだ。


 俺は二人がいるか分からないが、探す事にした。


 絆に電話すれば済むものの、昨日の事もあり俺からはかけにくかったのだ。



 しかし、そんなタイミングよくいるわけもなく諦めかけていた時、美波ちゃんから電話が鳴った。


「悟くんまだ外いる?」


「いるけど、どうしたの?」


「私さ、着替えたからちょっと行こうかなって思って」


「そうなんだ、おいでよ!」


 仕方ない、せっかくだから美波ちゃんと祭りを楽しもう。


 しばらく待っていると美波ちゃんが来た。


「結構遅くなっちゃった!」


 小走りで来た美波ちゃんは浴衣を着ていた。髪もセットして結んでいる。


 ‥‥可愛い。



「遅くないよ!むしろこの短時間でよく準備出来たね」


「フフッすごいでしょ〜」


「俺だけこんな格好で合わないよね」


「悟くんはどんな格好でもかっこいいから大丈夫だよ!そうだ、私りんご飴食べたいなー」


「りんご飴ならあったから行ってみようよ」


 俺はりんご飴を買ってあげる事にした。


 美波ちゃんはまるで子供のように喜び、美味しそうに頬張る。


 でも、その口元から目が離せなかった。


 新鮮な浴衣姿、横から見えるうなじ、りんご飴を舐める舌。


 美波ちゃんを見ているとどうしても反応してしまう体になってしまったようだ。

 

「悟くん?どうしたの?」


「あ、いや、なんでもないよ!」


「あ〜、私に見惚れてたんでしょー?」


「ハハッ、まぁ、そんなとこかな!」


「私って友達からはよくあざといって言われるんだけど、男はそうゆうの好きでしょ?」


「自分で言っちゃうんだ」


「フフッ。だってわざとじゃないもん、これが私の素だからね」


 これが美波ちゃんの素なのであれば、他の男が寄って来てもほいほいと体をくっつけたり、誘うような仕草を無意識にしてるって事だよなぁ。

 俺はなんだか複雑な気持ちになった。


「も、もっと見て回ろっか」


「うん!」


 こんな可愛らしくて素直な子、他にいないよな‥‥。



 

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