第22話


 きっと美波ちゃんのことを蔑ろにした罰だ。


 美波ちゃんの事を大事にしなかったから、絆との仲を壊されたんだ。

 俺はそう自分に言い聞かせるしかなかった。


 そんな事を考えながら一人とぼとぼ帰っていた時、街で見覚えのある後ろ姿を見つけた。


 あれ?あれって石原さんじゃ‥‥って横にいるのは絆じゃない、誰だ?


 俺は何も考えずに気付けば走っていた。


「石原さん!」

 

 俺が後ろから声をかけると、石原さんは驚いた顔をしていた。


 それもそうだろう、石原さんといた人は明らかに浮気相手のようで、二人は腕を組んでいた。

 石原さんはやばいと思ったのか、一緒にいた人に先に行くように言っていたが、その人も渋々といった感じで不機嫌になっていた。


 その人が離れるのを確認して石原さんは言った。


「絆には言わないで」


「美波ちゃんが言ってたのは本当だったんだね。ホテル街に一緒にいた人ってさっきの人でしょ」


「はぁ。よりによってなんで悟くんに会うかな」


 石原さんはため息をつきながらタバコに火をつけた。


「なんで絆がいるのに浮気なんか」


「浮気じゃないから」


 白々しい。


「どう見ても浮気でしょ」


「まあ確かに悟くんにはそう見えるかもね」


「絆の事、裏切る真似して許せない‥‥」


「ハハッ。そんな怖い顔して、今にも殴りかかって来そうだね」


 そう。本当に殴ってやりたかった。

 でもそんな事出来るわけないと石原さんも分かっていたはずだ。

 

「当たり前じゃん。絆には言うから」


「言ったって絆を傷つけるだけだと思うよ」


「なに?!」


「悟くんがどう頑張っても状況は変わらないし絆は出ていかないよ」


「どこまで最低なやつなんだよ」


「この際だから教えてあげるけど、さっきの人は浮気じゃないから」


「往生際が悪いにも程がある」


「だって浮気は絆の方だから」


「は?」


 俺には言ってる事が理解出来なかった。


「こっちが本命で絆はただ利用させてもらっただけだよ」


「ちょ、言ってる意味が分からないんだけど」


「絆は表向きの恋人でさっきの人とは元々付き合ってたんだよ」


 俺は開いた口が塞がらなかった。


 どうやら石原さんは親に、跡取りがいるから付き合ってる人がいるなら紹介しなさいと言われていたらしい。


 でも今付き合っている人は半グレだ。

 親に紹介出来ない。


 そんな時、学校で一際明るく元気な絆に目をつけたらしい。


 最初はダメ元で告白したが、運良く付き合えたと。


 そして、都合のいい事に絆の両親の工場は危機に陥っていて借金が払えなくなっていた。

 そこで工場を助けると言う条件で石原さんの家に絆を住まわせながら親の目を欺きたかったと。


「信じられない。そんな事に絆を利用するなんて」


「まぁ、これで気にせず本命と遊べると思ったね。別に絆の事が本気で好きなわけじゃないし、都合がよかっただけ」


 タバコをふかしながら平然としている石原さんに俺は気が狂いそうになっていた。


「人間性を疑うよ」


「勝手に疑ってよ。てか絆の事がそんなに好きなの?」


「そうだよ、悪いかよ」


「ストーカーみたいだし気持ち悪いよ?絆も同じ気持ちならまだしも脈なしじゃん?」


「そんな事ない!俺には分かる」


「悟くん現実見たら?一度でも絆が悟くんに好意見せた事ある?」


 ‥‥好意?ある。あるに決まってる。

 いつも一緒だったし、そもそも最初から絆は俺が無視しててもずっと隣にいてくれたし、好意がないとそんな事出来ない。


「‥‥あるよ」


「あ、絆は優しいからね。優しさを勘違いしたんじゃない?」


「そんな事‥‥ない」


「ほら、考えてみると、絆はただ友達として悟くんに優しくしてただけなんじゃないの?」


「違う‥‥」


 てかなんで俺が石原さんに諭されてるんだ?


「叶わない恋だと思うなー」


「好き勝手いいやがって」


「あー怖い怖い。まぁせいぜい頑張って振り向かせてみたら」


 そう言いながら石原さんは去って行った。



 俺は現実を見てないのか?

 叶わない恋なのか?

 周りから見たら絆の優しさは好意ではないと言うのか。


 頭の中ではぐるぐると今までの絆との日々が走馬灯のように駆け巡っていた。


 友達‥‥都合のいい言葉だな。

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