第21話


 最近はだんだんと日が暮れるのも早くなり、七時ともなれば過ごしやすい気温だ。

 

 この気持ちいい風をいつもなら絆を自転車の後ろに乗せて気持ちいいねと言いながら帰っていたはずなのに‥‥。



 そういえば絆の両親は石原さんの事をどう思ってるんだろう。


 そんな事を考えていると、足は勝手に絆の家に向かっていた。


 絆の両親とはあまり面識がない。

 でも来たからには話をするしかない。

 

 いつになく緊張している俺は、どきどきしながらインターフォンを押す。


「はーい」


 絆の母親らしき人が出てきた。


「あ、あの、俺、絆の友達の悟と言います」


「絆の友達が何の用かしら?」


「いきなり来てこんな事言うのも失礼かと思ったんですけど、絆が今石原さんと付き合ってるのご存知ですか?」


「あ、えぇ。それが?」


「その事で少し話したい事があって来ました」


 俺がそう言うと絆の母親は周りを見渡して言った。


「わかったわ。上がってちょうだい」


 近所に聞かれるのを嫌がったのだろう。


「おじゃまします」


 家に上がると母親だけのようだった。


「それで、話って?」


 少しため息混じりに聞こえた。


「絆が今どんな状況か知ってますか?」


「どんな状況って、あなたは知ってて来てるんでしょう?何が聞きたいの」


「絆はご両親の為に自分を犠牲にしてるんですよ」


「犠牲って大袈裟な」


「大袈裟?絆がどんな思いであの家にいるのか知ってるんですか?学校まで辞めて、工場の為に婚約までさせられてるんですよ!」


「仕方ないのよ‥‥」


「仕方なくありません。お母さんの方から絆に言ってください」


「何を言うのよ」


「別れてあの家を出てくるようにですよ」


「なんであなたにそんな事言われないといけないのよ」


「俺は絆が辛い思いしてるのを見過ごせないんですよ。お願いします」


「私だって辛いわよ。でもそんな簡単に言えるならとっくに言ってるわよ」


「何でそんなに石原さんに気を使わないといけないんですか?絆より工場の方が大事ですか?」


「‥‥従業員の生活もかかってるのよ。私たちのせいで、他の家庭が路頭に迷う事になるの。私たちだけの問題じゃないのよ」


 正直俺はそこまで考えてなかった。

 でも‥‥。


「でも、絆は苦しんでます。まるで奴隷です」


「そこまで言わなくても‥‥。分かってるの。でも仕方ないのよ‥‥」


 絆の母親は涙ぐんでいた。


 俺は少し残酷な事を言ったのか。

 仕方ないと言われても俺には言い訳にしか聞こえなかった。それにこれ以上話していても意味がない。


「もういいです」


 俺はもう諦めて帰る事にした。

 みんなは同じ状況になっても仕方ないで済まされるものなのだろうか。


 俺に何が出来る?


 実際問題、高校生の俺に出来る事など見つからなかった。


 悔しいけどこれが現実なんだ。




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