第9話
「お待たせー!」
「ありがとう」
石原さんに笑顔を見せる絆。
石原さんはさっきとは別人のようだ。
「遅かったですね、混んでました?」
美波ちゃんが心配してくれていた。
「うん、少しね」
俺が美波ちゃんにそう言うと、石原さんがこちらに視線を送ってきた。
絆に近づくなということだろう。
「美波ちゃん、そろそろ帰ろっか」
「え、まだ時間ありますよ?」
「ちょっと帰りに行きたいところがあるんだ、付き合ってくれない?」
「わかりました」
俺だって美波ちゃんの水着姿をジロジロ見られるのは嫌だし、石原さんの視線が痛くて早くその場から去りたかった。
俺はモヤモヤしたまま着替えを済ませて美波ちゃんと地元まで戻ってきた。
適当な事言って帰ってきちゃったけど、どうするかな。
俺と美波ちゃんは駅を降りると、どこに向かっているのかお互い分からないまま歩いていた。
「何かありました?」
「ん?」
「なんだか浮かない顔してるから」
「ちょっと考え事してて、ごめん」
「行きたい所があるって嘘ですよね」
美波ちゃんが少し暗い声で言ってきた。
「ごめん。なんだかあの雰囲気が気まずくて嘘ついちゃった」
「分かる気がします」
「美波ちゃんはちゃんと会うの初めてだもんね」
「そうじゃなくて、絆さんといた人ですよ」
「石原さん?」
「はい、あの人なんか私たちの事敵視してるように感じて少し怖かったです」
「美波ちゃんもそう感じてたんだね」
「悟くん、あんまり関わらない方がいいですよ」
「俺も気に入らないしそうするよ。でもこんな早く帰ってきちゃってどうしよう」
「そうだ!うち寄ります?」
「美波ちゃんち?」
「はい!ここから近いし、のんびり漫画でも読みませんか?」
「美波ちゃんがいいなら、そうしようかな」
「是非是非!」
美波ちゃんはとても元気になり、俺の手を引っ張ってくれた。
なんだか気分が落ち込んでても美波ちゃんが上げてくれる。
俺には勿体ない子なのかも。
俺は美波ちゃんの部屋に案内されて入る。
「か、可愛い部屋だね」
「本当ですか?普通ですよ」
美波ちゃんの部屋は全体的にピンクで揃えられており、メイク道具も沢山あった。
俺は女の子の部屋に入ったのはもちろん初めてだが、美波ちゃんに緊張してるのをバレないように平然を装うのに必死だった。
「なんでずっと立ってるんですか?適当に座って下さいね」
俺はソファがあったのでそこに座る事にした。
そして美波ちゃんは俺の横に座ってきた。
やはり美波ちゃんは慣れてる。
それもそうだろうな、こんなに可愛い子をみんなが放っておくわけがない。
きっと色んな人と付き合ってきたんだろうな。
「悟くん?」
「ん?」
「また考え事ですか?」
「あ、ごめん」
「悟くんっていつもぼーっとしてますよね」
「そんな事ないよ、でもこれから気を付けるね」
「はい」
美波ちゃんが少し寂しそうな顔をした。
「あ、そうだ。美波ちゃんさ、ずっと俺に敬語だけど、付き合ってるんだしタメ口でいいよ?」
「ほんと?やったぁ!」
キラキラした笑顔を俺に向ける美波ちゃん。
感情の起伏が激しいな。
それとも単純なのか?
しかし俺はそんな美波ちゃんの笑顔が好きになっていた。
「悟くん?」
「ん?」
チュッ。
「え」
「付き合ってるんだし、ダメ?」
美波ちゃんが俺のほっぺにキスをしてきたのだ。
俺は突然の事に戸惑っていたが、美波ちゃんの上目遣いも相まってこの状況から逃げないとと思った。
「うん、これ以上はまだダメかな」
「海で私がくっついた時、反応してたよね」
「げっ」
「フフッ、気付いてないとでも思った?」
美波ちゃんは少し意地悪そうな表情で俺を見つめる。
あぁ、美波ちゃんってこうゆう子なのね。
「ごめん、あんなに密着したらつい‥‥」
「悟くんの体は正直なんだね」
そう言いながら俺の膝に手を置く美波ちゃん。
「き、今日はもうおいとましようかな!」
「あー、また逃げるんだぁ」
立ち上がろうとする俺の服をくいっと引っ張りながら子犬のような困った目をする美波ちゃん。
このままここにいたら俺は襲われる。
本能的にそう思い、どうにかして帰りたかった。
「ごめん、俺そんなつもりで来たんじゃないから」
美波ちゃんが下を向いたまま固まった。
少し冷たかったかな。
「悟くんって正直じゃないね」
「いや、正直とか正直じゃないとかじゃなくて、早すぎるんじゃないのかなって思って。ごめん」
俺はどんな気持ちでここにいるのか分からなくなっていたが、この空気に耐えれなくなって俺は美波ちゃんを残して部屋を後にした。
これって喧嘩?なのかな。
一方的に俺が悪い感じ?
そんな事を考えながら帰るも足取りは重い。
美波ちゃんって欲求不満なのかな。
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