第10話



 あれから美波ちゃんとは連絡を取っていない。


 絶対怒っている。


 夏休みはまだ半分も残っているというのに。


 それなのに俺は‥‥。


 ベットに転んでぼーっと天井を見つめていると、外から何やら声がする。


「悟〜いる〜?」


 窓の外を見ると、そこには絆の姿が。


「こんな時間になに?」


 時刻は夜の10時を過ぎていた。


「今出れる?」


「まあちょっとなら」


 俺が外に出ると、絆は言った。


「あのさ、この前占い行ったじゃん」


「うん」


「あれって本当だと思う?」


「俺は信じてないけど、それがどうしたの?」


「いや、なんとなく」


「何かあった?」


「‥‥いや別に」


 明らかに何かあった様子の絆だが、言い出せないような感じだった。


 海の時石原さんに絆と関わるなって言われた事言った方がいいのかな。


「占いなんかあんまり気にしなくてもいいと思うけど」


「なんでそう思うの?」


「所詮占いだし、そんなんに振り回されるなんて馬鹿みたいじゃん?」


「あぁ、馬鹿ね」


「そうそう。でも何かで悩んでるなら相談ぐらいは乗ってあげれるし俺に言ってみ?」


「いいや、なんかこんな時間にごめん」


 馬鹿とか言って怒ったかな。

 絆は心なしかしょんぼりしていた。


「本当、何かあったんじゃないの?」


「よく考えたらなんで占い信じてるんだろ、本当馬鹿みたいだよね」


「石原さんに何か言われた?」


「ううん、でもなんで悟のとこ来てまでこんな事聞いてんのか自分でも分からないや」


「話したい事があったんじゃないの?」


「悟の顔見たら忘れた!」


「なんだよそれ」


「また思い出したら電話するわ!じゃあ!」


 そう言うと何かを思い出したかのように絆はそそくさと帰ろうとした。


「ちょっと待って」


 俺は気づいたら絆を追いかけていた。



「なに?」


「あのさ、絆は石原さんの事好き?」


「なんで?」


「いや、タイプじゃないって言ってた割に仲良さそうだし、海も一緒に行ってたから」


「‥‥そりゃ好きだよ」


「そっか」


「え、なに?」


 こんな時でも俺はうじうじして、本当自分が嫌になる。好きか聞いてどうすんだよ。


 聞いたところで何も出来ない、でも絆と石原さんがうまくいっているのが気に入らない。

 俺は絆の事‥‥。



「悟も彼女と仲良さそうじゃん」


「あ、まぁ‥‥」


「悟の彼女、可愛いし、スタイルも良くて、愛想もいいなんて最高じゃん」


「うん」


 そうだ、美波ちゃんは俺には勿体ないくらいだ。


「もうキスぐらいしたの?」


「き、キス?!」


「フフッ、その様子じゃしてないな」


「付き合ったばかりだからな」


「悟って経験豊富そうに見えて、奥手だもんな」


「言うなよな」


「ごめんごめん」


「そうゆう絆はどうなんだよ」


 あ、聞くんじゃなかった。

 絆は俺と真逆の性格だ、そんなのしてるに決まってる。聞きたくないのに‥‥。



「想像に任せるよ」


「な、なんだよそれ」


「てかそんなの聞いて嬉しい?」


「え?」


「お互い上手くいってるんならよくね?」


「あぁ、うん」


「でも、なんかあったら相談ぐらい乗ってあげるよ」


「真似すんなよ」


「ハハッ、じゃあそろそろ帰るわ!」


 帰ろうと後ろを向く絆。


「待って!」



 もっと一緒にいたいと思った、でも理由を言えない俺は絆の事を抱きしめた。


「‥‥悟?」


 抱きしめた手から絆の鼓動が伝わってくる。もちろん、俺の鼓動も伝わっているだろう。


「ごめん少しだけ‥‥」


 絆は固まっていたが、すっと息を吸う音が聞こえた。


「‥‥やめて」


 絆の言葉でハッとした俺はそっと離れた。

 

「俺‥‥」


「ごめん。悟は‥‥友達だから」


 そのまま振り向く事なく街灯に照らされながら帰る絆の後ろ姿を見て俺は自分を殴りたいような気分だった。


 友達か‥‥。


 胸の奥がギュっと締め付けられた。






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