第17話


 俺は占いに行った帰りに石原さんちに寄った。


 インターフォンを押してしばらく待っているとお手伝いさんが出てきた。


「どちら様ですか?」


「あ、あの、俺、絆の、東 絆の友達なんですけど、絆いますか?」


「絆さんなら仕事に行かれてますよ」


「仕事、ですか?」


 そういえば工場の借金がどうとか言ってたな、それで学校も辞めて働いてるんだ。


「中で待たれますか?」


「あ、いや、大丈夫です」



 俺は絆が帰ってくるのを家の外で待つ事にした。


 何時間待っただろう、外はもう真っ暗になっていた。


「悟?」


 そこに現れた絆はとても綺麗な格好をしていて、まるで別人だった。


「絆、なんでそんな格好してんの?」


「いや‥‥。ちょっと来て」


 絆はそう言うと、俺の手を引き家から離れたところに向かった。


「どこまで行くんだよ」


「家には来ないで」


「もし絆が困ってるなら助けたい」


「その必要はないよ」


「工場が大変なのは分かるけどさ、俺と関わらないとか意味不明なんだよ」


「本当の事を教えるから、これ以上付き纏わないって約束して」


「それは内容によるよ」


「分かった、でもどこから説明したらいいのか」


「最初から教えて」


 すると、絆はゆっくり話し始めた。


「最初石原さんと付き合い始めた頃は楽しかったんだ。でも次第に束縛が激しくなっていって、気付けば自由がなくなっていた」


「そんな事だと思った」


「でも工場が大変な事になって、石原さんにうちにおいでって言われて頼るしかなかった。石原さんの家がお金持ちだと知ったのはその時だった」


「そうなんだ」


「石原さんのご両親がうちの会社で働くかって言ってくれて、こっちは生活がかかってたから働く事にしたんだ。それで石原さんのご両親に提案された」


「なにを?」


「石原さんと婚約するなら工場を助けると」


「は?なにそれ?今どきそんな事ある?!」

 

 俺はあまりの事に驚いた。


「本当なんだって。でも工場の事を思うと、はいって言うしかなかった」


「‥‥あり得ない。婚約だなんて」


「だから色々制約させられてる」


「制約?」


「まず、悟と縁を切る事。それは石原さんが悟の事気に入らないからなんだって」


「そんなのまるで籠の中の鳥じゃん。そんなやつといたら絆は幸せになれないよ」


「幸せ、ってなんだろうね」


「‥‥俺のとこにこいよ」


「何言ってんの?冗談のつもり?」


「俺がそんな事言うのはおかしいって思うかもしれない、でも本気なんだ」


「悟には可愛い彼女がいるんだから、大事にしないと。それにこっちも親の事があるから無理」


 それを言われると俺は言い返す言葉がなかった。


「でも、もっと他に方法ないの?婚約までする必要ある?」


「知りたいのはこっちの方だよ。石原さんとなんか付き合うんじゃなかった‥‥」


「じゃあ別れたらいいじゃん!」


「そんな簡単な事じゃない。生活かかってるんだよ。このまま石原さんのところにいればみんな幸せなんだよ」


「絆はどうなるんだよ」


「いいからさ、分かったら帰ってよ」


「俺が考えるよ。絆の事諦めないから」


 

 親の為に自分を犠牲にするなんて間違ってる。

 でも石原さんへの気持ちはあるのか?

 いや、あったらあんなに暗い顔しないはずだ。

 

 俺はない頭で考えることにした。



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