第13話
突然だが、この学園に所属してる人数はかなり多い。
Aクラスは5人、Bクラスは30人、C~Gクラスは50人。一学年が285人で、三学年合わせて855人いることになる。
成績や総合的な実力を基にクラス分けがされるが、Bクラスで優秀な成績を取った者はAクラスに移転できる『下克上システム』が存在する。
まあ何が言いたいか、って言うと。
幾らAクラスでも成績が悪かったら落ちるんだよ。
「ヤバい、助けてユウ。このままじゃ僕は……落ちる」
迫る中間考査の中、顔面を見事に真っ白にしたレインが俺にすがり付いてきた。
「お前……馬鹿は馬鹿でも頭悪い馬鹿だったのか……」
「馬鹿馬鹿連呼しないでよっ!! 僕だって……僕だって真面目に勉強しようと毎日机に向かってる……でも」
「でも?」
「……気づいたら朝になってるんだ」
「馬鹿じゃねぇか」
ジト目でツッコむとレインはぶわっと目に涙を浮かべた。詳しくは知らないが、レインの成績の悪さは相当なようだ。泣く程なのか。
そういえば昨日小テストがあったはずだが。
「レイン、昨日の小テスト何点だった?」
「数学のやつ?」
「そうそう。まあ結構簡単だったし流石に──」
レインは鞄の中からプリントを取り出し俺に見せた。
「お、お前……」
──ゼロだった。
完膚なきまでのゼロの数字に俺は目を見張る。あり得ないと思ったがここまでかよ……。
「お前何して生きてきたの? ずっと寝てた?」
「そこまで言う!? ち、違うから! 数学が少し苦手なだけで……」
「じゃあ他のも見せてみろよ」
「へぅ!? い、いや、ユウの目を汚す程のものでも……」
俺が他の小テストを催促すると、誰が見ても分かるような狼狽え方をした。
碧眼の双眸は、キョロキョロと忙しいし、あからさまに落ち着かない様子は全ての事象を察することができるだろう。
「……悪いんだな?」
「いや、別にそんなことは……」
「悪いんだな? な?」
「……はい」
レインは観念して他の教科のプリントを俺に渡した。
どれどれ……
「薬学40点、魔法基礎論30点、国語5点、歴史学80点、で、数学が0点と」
入学当初にミラ先生が言っていたカリキュラムの他にも、一般教養と呼べるものが授業として入る。それが、国語、歴史学、数学だ。
王子だけあって歴史学は高いが、他は目を塞ぎたくなる程酷い……いや、惨い点数だ。
「100点満点だぞ? 逆にどうやったらこんな点数取れんの?」
「うぐっ……。だ、だから恥を忍んで頼んでるんじゃないか!」
「威張って言うことか……。ま、お前を弄れなくなるのは嫌だし協力はしてやるが」
「ゆ、ユウ……。ん? 待って弄れなくなるってどういうこと? やっぱり僕のこと──」
騒ぎ出すレインを置いて俺は教室を出た。やかましいメスめ。
☆☆☆
ドリルとの決闘から二週間ほどが経っているが、関係性はあまり変わらない。
だが、ドリルの意識は大なり小なり変わったみたいで、あからさまな爵位差別的発言をしなくなっている。そして、他クラスとの交流に励んでいるらしく、俺は嬉しい。
俺に突っ掛かってくるのは変わらんけど。それまたドリルの個性と思えば良いか。
さて、目下の悩みは一ヶ月後に迫る中間考査の『レインクッッソ頭悪い問題』だ。あのアホメス王子め……面倒な問題を寄越してきやがって。
俺の成績は良い方だが、教えることに向いていないという問題がある。つまり、誰かの力を貸してもらわねばいけない。
と、いうわけで。
「へーい、お姉さん、ちょっとお茶しなーい?」
やって来ました図書室!!!
うむうむ、目の前に座るセリカにゴミを見る目で睨まれるけど予想通りだぜ!
「なんの用……? あたし見ての通り忙しいんだけど」
ジロリと睨むセリカに、俺はナンパ男のようにヘラヘラ笑いながらセリカの対面の席に座った。
すぐさまビシビシと歓迎されていないオーラを目の前から感じるが、そんなことでへこたれる俺じゃない。
「なんの本読んでんの?」
「別に。あんたに関係無いでしょ」
ちらりと俺を見るが、すぐに本に視線を落とした。うーむ、冷たい。だが、何か引っ掛かる。
「ところでちょっとお願いがあるんだけど」
申し訳なさそうな雰囲気を醸し出し、手を合わせて頼み込む。
「無理。嫌だ」
しかしにべもなく断られる。
「レインの勉強見てほしいんだよね」
「嫌だ、って言ったけど?」
「いやぁ、落第しそうでヤバいんだよの、あいつ」
「……あたしに関係ないし」
「お前もクラスメートがいきなりいなくなったら嫌だろ?」
「そういう同調思考嫌い。ただ勉強してないメス堕ちが悪いんでしょ。自業自得な話」
「それもそうだな」
本当に。
今までよくやってこれたな、と思う程地獄みたいな成績だ。要領が悪いのか、そもそも勉強が向いていないのか。レインの話を聞くに後者であるという予感が強いが、そうであれば強い刺激を与えて矯正するしか方法がない。
「というか。あんたの許嫁様にでも頼めば? わざわざ私に頼む理由が分からない」
ヘッと吐き捨てるように言ったセリカの瞳には、明らかな侮蔑が篭っていた。
うーん、なんかうちのクラスって関係複雑すぎね? 間に挟まれた一般人の俺が可哀想だ。
それにしてもステラに頼む? 端からそんな考えは存在しない。
「あいつに頼むくらいなら死んだ方が良い。借りを作りたくないし貸しを作りたいとも思わん」
「嫌いなの?」
「……微妙だな。何考えてるか分からないし、行動に整合性が無いところが苦手だけど……嫌いとまではいかん。ムカつくけど」
「ふーん。あんたも苦労してんだね」
「まあな。そもそもステラは俺のことが嫌いだと思うぞ? 家の利益云々言ってたし嫌々俺と結婚しようとしてるんだよ」
「ふっ」
やれやれとかぶりを振りながら愚痴を吐くと、セリカは一瞬目を見開くと鼻で笑った。
「なんだよ」
「別に。何はともあれあんたに協力する気はないから」
「そうかい。無理にはとは言わないからな──」
「そう、じゃあさっさと出て────」
「──そんな配慮、俺にあるわけないんだよなぁぁ!!!」
「なっ……!? 何する気……っ!」
ガタンとセリカは立ち上がり後退る。本を盾にするように構え、その瞳にはありありと警戒心が浮かんでいる。
俺は手をワキワキさせながらどう料理してやろうか、と思案を巡らせるが、ふいにセリカの持つ本の背表紙に目が吸い寄せられた。
「……魔法の使い方……?」
あ、なるほど。
──これは使える。
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