第25話

 洞窟を抜けると、ドリルの姿が遠目に見えた。速度を下げずに、俺は全速で駆ける。


「はぁ……はぁ……疲れた!! 準備は!」

「完了しましたわ! ……ちっ、生きていましたの」

「一言余計なんだよ。で、どういう作戦?」

「グラキエース様が、周りに薄く注目を集める魔法を張ってますわ。そして、直線上に爆撃と足止めの魔法。そして、今私たちがいる場所に【捕縛】【呪縛】【千手】を掛ければ完了ですわ」

「ハメ手えげつな」

「貴方が言います?」

「万が一の時に備えて……【弱体化結界デバフ】」


 ドリルが仕掛けた罠の中心点に、弱体化の結界を張った。外からの侵入を拒むだけが結界ではない。結界内に魔法効果を付与し閉じ込めることこそが結界の真価だと俺は思う。


 待機しているセリカ、ステラ、レインに目配せすると、レインのみ緊張した面持ちで頷いた。


 瞬間、神話の咆哮が轟く。


「グオオオオオオオッッ!!!!!!」


「っ、あれがドラゴン……」

「怖じ気づいたか?」

「まさかですわ!!」


 一瞬気圧されたドリルだが、次にはすでに持ち直していた。ここにいるのがお嬢様とは言えない豪胆な奴で良かったよ。ま、怖じ気づいてたら煽ってやる気を出させる腹積もりだったのだが。


「よし、引っ掛かったな」


 俺たちに向かって一直線に走ってきたドラゴンは、翼を広げる寸前で爆発が轟きたたらを踏む。ブレスを放とうとした瞬間に氷魔法が発動し邪魔をする。

 イヤらしさ全開の罠だな。俺でもあれは思い付かねーわ。嘘だ、もっと酷いのも何個か思い付く。


「ガアアアアァァァァァッッ!!!!!!」


「おーおー、相当怒ってんな、あれ。でも、注意散漫だぜ?」


「クギャッ!!??」


 遂にドラゴンは仕掛けた本命の罠に嵌まった。

 足は泥で埋まり、全身には魔法金属で出来たロープがくくりつけられ、【呪縛】の効果で思うように身動きが取れていない。さらには【千手】の魔法が発動し、地中から無数の腕が生えて、ドラゴンを掴む。


「うわぁ、キモいですわぁ……」

「下手人が黙れよ」

「嬉々としてデバフ掛けた貴方も人のこと言えませんわよ? むしろ、あの程度で済ませた私の慈悲を称えるべきですわ」

「あー、はいはい、すごーい」

「適当に言うんじゃありませんわーー!!」


 ドラゴン退治中だとは思えない雰囲気だが、俺らはもうすでにお役御免だ。後はドラゴンの首を持って帰るだけなのだ。



 地を揺らす轟音が鳴り響く。


 セリカの攻撃が始まった。






☆☆☆



 すごい……。

 僕は目の前で放たれる超級の魔法に目を奪われていた。


 セリカさんはすごい、というかヤバい。

 強化魔法を重ね掛けできるのもそうだけど、膨大な威力を誇る魔法を操れることが驚嘆だ。

 顕現した魔法を操ることはかなりの集中力を要する。ただどこかに吹っ飛ばすなら誰でもできるけど、セリカさんは遠くから一点集中で寸分違わずドラゴンを射抜いている。

 自分を卑下しがちなセリカさんだけど、威力と操作力だけなら誰よりも強い。


 そんなセリカさんが僕のため……じゃなくても協力してくれている。グラキエースさんも、ルスペルさんも……ユウも。

 王の権力云々と彼は言っているけど、今まで見たことないしおらしい態度だった。あれは照れ隠しだったんじゃないかなって、僕は少し思ってる。……普段の僕の扱いとは雲泥の差だよ。……熱でもある? 流石にそれは失礼かな。


「王子……緊張?」


 知らずに杖をグッと握り締めていたのがバレたのか、グラキエースさんが無表情で聞いてきた。


 相変わらずハッと見惚れる程の美貌だ。


 こんな美人に好かれて袖にするユウはちょっと分からない。普通に羨ましい。


 僕は心配をかけまいと震える腕を我慢して笑う。


「大丈夫だよ。みんなに託されたんだ。僕はきっとやり遂げるよ」

「多分誰も貴方に託してないから大丈夫……」

「グハッ……!!!」


 やっぱり僕の扱いぞんざいすぎないかな!?

 最早イジメじゃない!? なんだよ、メスなのが悪いってんのかよーーー!!!!!!


 心の中で滂沱の涙を流したら叫ぶ。


 そして僕は自らの緊張が消え失せていることに気づく。……なるほど、悲しみと怒りが緊張を上回ったんだ!! うわぁ、なんか嫌だ。




「あと三分で出番……」

「分かった」


 もしかして緊張を紛らわせるために……それはないか。うん、無いね。仮にもユウの許嫁なんだからね。






「【秘術・八寒地獄】」



 ──黒龍は氷に閉ざされ、二度と覚めない眠りにつく。

 

 僕の、みんなの勝ちだ。






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何気に一番強いのはレインです。

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