第24話

 洞窟の中を俺は進む。

 中は薄暗く、剥き出しの岩肌から水滴がこぼれ落ち、ピチョンと水の垂れる音が一歩ずつ進む俺の足を阻害した。


 とか言ってるけど正直言って全く怖くないんだな、これが。


「早よ来いやクソドラゴンが。さっさと帰って面倒な出来事とさよならバイバイさせてくれ」


 洞窟はそれなりに広く、【暗視】の魔法が無ければ暗闇で何も見えないだろう。奇襲を受けてこの世からすぐに去ることになる。

 だから【気配感知】と【遮音】の魔法は欠かせない。


 こうやって不満を毒づいてたって当本人のドラゴンには全く聴こえないのだ。バーカバーカ、人の迷惑を顧みないビチクソドラゴンやーい。


 そんな事を考えていたからだろうか。

 突如洞窟の奥から地鳴りのように低く轟く叫び声が聴こえた。


「グルルルルル……ッ!!」 

「来たか」


 俺は即座に意識を戦闘モードへと変える。古来より切り替えが大事なのだと俺のお祖父ちゃんも言っている。多分。


 そして姿を現したのは、体表が黒い鱗で覆われている体長をゆうに20mを超える神話上の生物──ドラゴンだ。

 あれ、でかすぎね。というか俺に気づいてるっぽいんだが。


「あ、匂いか。対策忘れてたわ」


 まあ、でも丁度良い。追い掛けてくれるならどの道作戦の範囲内だ。


「グオオオオオオオオオオォォォォォ!!!!!!!」


 獰猛な叫び声を上げて黒龍が俺目掛けて迫ってきた。

 

「【強化バフ】【速度スピード】【能力強化アビリティ・バフ】」


 これが限界か。   

 俺はセリカみたいに同じ魔法を組み合わせることができない。つまり、工夫して別系統の強化魔法を使う他ない。それでも、流石神話生物というべきか、その体躯からは想像できない速度で俺を追従する。


「やばいやばい、さすがの俺でもやばい。【風破裂エアロバースト】」


 俺は両手付近に魔法陣を出現させ、そこから暴風を生み出し風の力で速度を急激に上げる。  

 俺が杖無しで魔法を行使できるゆえの芸当だ。それでも、両腕にかかる圧力は凄まじく、骨が軋む音まで聴こえる。


「グルルルルル……!! グラアァァァ!!!」


 まるで逃げるなと言わんばかりに黒龍は叫ぶ。

 生憎と生身で相手できると思うほど自惚れてはいないんでね。ドリルと違って。


「ブレスを撃ってこないのは……まあ、当然か」


 こんな洞窟だ。息吹ブレスを撃とうものなら、漏れなく洞窟は崩壊する。それをドラゴンも理解しているからこそ、叫びながら愚直に俺を追うのだ。何百年も生きているドラゴンにそんな知恵がないわけない。


 それでもやはり速い。純粋な速度で敵いっこない。

 何か考えねば……洞窟を崩すほどの攻撃は俺まで巻き込んで天国にレッツゴーだ。あ? 地獄? ……ちょっと何言ってるか分かりませんねぇ。


「何か手は……あ、思いついた。そういえば前作った悪戯魔法があったはず」


 くっくっく、これは俺の中での最強魔法だ。


「喰らえ!! 【悪臭破裂スティンクバースト】」


 後方に茶色の煙が巻き起こる。


「グオオオ……グオオオ…………」 


 ドラゴンの勢いがやや弱まった気がする。


 当然だ。

 最強の屁を持つ我が父を参考に作った、臭気を約二百四十倍にした最強の肥やし魔法だ。

 目潰し、鼻潰し、貴方の体からその匂いはしばらく取れません! あら、不思議、尊厳も潰しましたわ! の外道魔法だ。


 ちなみにドリルに使おうとして踏み止まった魔法だ。意外に俺は優しいのかもしれない。


 ドラゴンが苦しんでる間に俺は風魔法を全力で発動させる。



「見えた!!!」


 そして俺はドラゴンとの鬼ごっこに勝利したのである。

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