第23話

「場所はカスト平原近くにある大洞窟。そこに太古の頃からいるドラゴンがいる。まあ、たまーに人里で大虐殺する邪龍だな」

「そんな軽く……?」


 馬車で移動しながら地図を広げる。  

 各々、装備済みだ。

 俺は威力上昇の効果を持つ杖。守りを付与している鎧姿だ。魔道具だからかそこまで重くはない。全部家の宝庫から掻っ払ってきた。


 ドリルは家の隠し部屋にあった全攻撃減少の効果を持つドレス。俺よりやってること酷いと思う。


 セリカは遠くからバコスカ撃つから軽装備だが、魔力回復ポーションをありったけ持ってきたらしい。確かにセリカの魔力消費は激しいし得策だろう。


 ステラも遠くから魔法で、妨害及び迎撃を務めるから軽装備だ。同じくポーションを数本持っている。


 一番重要なレインは、ガクブルと体を震わせながら豪華絢爛な金色の鎧に身を包んでいる。少ない時間で王城の宝庫から盗むにはこれだけが限界だったらしい。


「今更だけど、僕たちかなり頭おかしいことしようとしてない……?」

「本当に今更だろ。酔狂超えてただの阿呆だぜ」

「言い出しっぺのエスペラントが言うのは間違ってると思いますが、それに付いてきた私たちも十分に気狂いですわね」

「あたしは巻き込まれた……って言いたいけど、意思表示はしてるから無駄かも……はぁ、こんな集団の仲間入りとか……」

「私はユウの好感度稼ぎ」

「面の皮厚いな」


 各々好き勝手に言っているが、まあ俺たちの仲間だと言うことだ。全員が全員、自分の求める利に従ってることに間違いはないから、究極のエゴイストと論じるのも有りだ。

 だが、ステラ。お前は許さん。こんなんで俺の好感度を上げられると……あれ、ちょっと絆されてる俺がいます?

 いいや、きっと気のせいだ。うん、そうに違いない。


「さて、作戦のお復習と行くか。まずは、ステラの【光学迷彩】で姿を隠しながら洞窟で捜索。俺とだけでな。発見したら、挑発し、道中に仕掛けた罠を使いながら平原に誘導。ぶっちゃけここが一番辛い。

 んで、誘導してる間にドリルがクソでかい落とし穴を掘って、ステラは飛行禁止の結界を張れ。セリカはその隙に強化バフ重ねて、落とし穴に嵌まり次第バーニングファイアー。弱っているところをレインが攻撃。はい、終了」

 

 実にシンプル……シンプルなのか? うん、きっとシンプルだな。簡単な作戦だ。


「えげつない嵌め手だよね……」

「ちょっとドラゴンが可哀想……」


 セリカとレインが引いた目で俺を見る。

 だが、そうは言ってもそれ以外に有効な作戦は無いし、命の危険が少ない方に賭けた方が良いだろ?


「命大事に、ってとこだな。正面切っての強襲なんて馬鹿がすることだ。どんな手を使ってでも泥臭く勝利することが今、必要なんじゃねーの?」

「そう、だよね。ごめんね、僕が発端なのに」

「本当にな」

「フォローするとこじゃないの!?」

「事実を言ったまでだが??」

「うっ……」


 それを言われると何も言えないレインは、いつものように項垂れる。でも、お前が発端でこんなに人が集まったなら……王の器があるってもんだろ。メスの人望とも言うか!


「まあまあ、レイン王子は被害者側ですわ。ですが、結局人を巻き込んでるわけですし、精々利用してやりますわよ」

「君も大概だね!?」

「今だけはドリルにさんせーい」  

「だろうね!!」

「あんたら、よくドラゴン退治の前でそんな雰囲気出せるよ……」

「変に気負ってたって、普段通りの実力を発揮できねぇだろ。なら、強引にでも雰囲気を変えるしかない」

「そっか、だから僕を弄って……」

「や、それは趣味」

「趣味!? ちょっと酷くないかな?」

「うるせーよ、メスが。祖母にまでメス扱いされてる性別不詳は黙ってろ」

「ただの罵倒だ!? え、おばあちゃんにまで僕、メス扱いされてたの!? 初耳なんだけど!!」


 あたふたと動揺するレインに俺はニヤッとわらいかける。俺の言動が事実だと悟ったレインは呆然と乾いた笑みで笑った。憐れレイン、強く生きろよ。


「……っと、そろそろ着くな」

「……っ。いよいよだね」

「エスペラントは死んでも構いませんが、他は気を付けましょう」 

「ぶち殺すぞドリル」 

「あら、怖いですわねぇ……」


 俺たちはバチバチと目線で戦う。

 このドリルめ。特徴的な髪を焼いてやろうか。


「ほら、さっさと歩くよ」


 セリカに諭されて、俺たちはふんっ、と顔を背ける。互いにそこまで怒ってるわけじゃない。俺らなりのコミニュケーションだ。絶許ッッ!!


「ここがカスト平原……」


 今は朝方だ。それを狙った。

 夜行性のドラゴンは今頃眠りに就くはず。疲弊している可能性は高い。そんな状態で襲われれば酷く怒り狂うだろう。怒りに支配された生物ほど操りやすいものはないのだ。


「本当に平原ね。それであそこが大洞窟」


 セリカがだだっ広い平原を見て言った。

 視界全てが緑に覆われているカスト平原だが、むき出しの岩肌がそびえ立っている近くには、ポッカリと穴の空いた大洞窟があった。


 無言のまま息を殺して移動し、遂に洞窟が目前まで迫ると、俺はステラに合図する。



「……【光学迷彩】」


 俺の体が空中に溶けて消える。



 さて、ドラゴン探して煽りに行くか!!



  

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