第26話

 後の出来事は簡単な話だった。

 長らく大暴れしてきた黒龍は俺たちの手によって討伐され、氷漬けになったドラゴンを【頑張って】持ち帰った。仔細は省くけどクソ疲れたとだけ言っておこう。


 その功績によりレインは王への道にグッと近づくことになり、民衆の支持云々も含めて最早確定と言って良いだろう。

 俺たちがレインをリーダーとした仲間だと見られている件については許せないが、まあ権力的に仕方ないと諦める他無かった。


 だが、そこで黙っていないのは二人の王子。レインを暗殺しようと腕利きの暗殺者を雇ったのだが、呆気なくその場にいた俺にやられた。

 決め手は周りに薄く展開していた麻痺結界と毒結界と俺の金的である。誰がなんと言おうと卑怯ではない。



 そして現在は色々なゴタゴタが終わった後の学園生活だ。結局日常は何も代わり映えはしない。



「なーにが、レイン王子と愉快な仲間たちだよ、ふざけんな。愉快なのはレインだけだろ」

「いや、色々な意味でユウは愉快だと思うよ?」

「は? やんのか、お前。名実ともにメスにしてやろうか?」

「え、ちょっと待って何されるの僕!?」

「遂に性転換魔法をな……」

「それは洒落にならない……っ!」

「冗談だが。人の人体を丸っと変えれる魔法なんておいそれと創れるわけねーだろ」

「ユウならやりかねないんだよ!!」


 レインは頬を膨らませて叫ぶ。 

 メス扱いすると相変わらず怒るが、もう慣れれば? 言っておくがドリルと一緒で扱いを変える気ねーぞ? 


「騒がしいですわね」

「脳内ハッピーなお騒がせお嬢様は黙ってろ、クソが」

「はぁ!? 誰が脳内ハッピーですってぇ? クソとゲロを煮込んだ性格の貴方の方がその汚い口を閉じた方がよろしくて?」 

「お嬢様らしくない罵倒なんだよ。汚ならしい」


 教室に入ってきたドリルが何やら喧しいことを叫び喧嘩を売ってきた。売られた喧嘩は買う主義だからな。必ず日の目を見れない逆襲方法を取るが。

 

「はぁ……変わらないね」


 そんな俺たちを見てレインは呆れたようにため息を吐く。変わらないのはお前の容姿だと言いたい。そもそも何だよ、その達観したような視線は。ふっ、僕は全て分かってるよ、とでと言いたげだ。


「風評被害を受けたような……」

「お前に起こる誹謗中傷は全部事実だ」

「酷いっ!!」


 



☆☆☆


「ユウ、これからどうするの?」 

「これからって、何がだ?」


 俺はステラに呼び出されていた。

 着くなりこのセリフ。いったいどうしたのだろうか。


「将来のこと。私と結婚してから」

「いや、しねーから。つか、変わらねぇよ。俺の夢は何時だって冒険者になることだ。ロマンと未知を求めてな!」

「そう……。それで、私と結婚してからどうするの?」

「お前遂に頭ぶっ壊れた? 俺は貴族とか責任、権利とかそういうしがらみから離れたいんだよ。ぶっちゃけ面倒なんだよ。上にヘコヘコすんのも変わらない定型文を繰り返すこともな」


 ステラは何を考えているか分からない表情でぼー、と虚空を見ていた。付き合いの長い俺だけが理解できるが、何かを思案している表情だ。本当かどうかは知らないけど。


「……決めた」

「あ? 何を?」

「私も冒険者になってユウに付いていく」

「はぁ!? なんで!? てか、無理だろ! お前の親父さんが許すわけなくね!?」


 狂ったかと思うようなステラの決意に、俺は目を剥く。あの親バカが許可を出すことはないだろうし、ステラがいるなら俺に出会いがなくなる。


「許可は……出させる。ユウと離れるくらいなら貴族の地位なんていらない。す、好きだから」


 何もかも無表情で言い切るステラが、頬を染めて俺に告白をした。それだけで驚きなのに、奴ははにかむように笑っていたのだ。


「……っ」


 思わず見惚れていた自分がいる。

 それ程までに見たことのないステラの表情は動揺を生んだのだ。くっ……待て待て、動揺するな俺。ステラが俺のことを好きだって? ……思い返せば確かにそんな行動を取っていたけど、無表情だからわかんねーわ! ……昔から俺はステラにどこか弱い。唯一の弱点とも言えるだろう。弱点を弱点のままにする程俺は愚かじゃないのだ。


「ステラ……あ、無理ですごめんなさい。俺、巨乳お姉さんがタイプなんだよね。というわけで脱兎!」


 呆けるステラを置いて、俺はスタコラさっさととんずらをかます。愚かなんだよね、俺。弱点は放っておくに限る。……まあ、逃げれるとは思っていないが。

 俺のタイプは巨乳お姉さんだ。だが、最近ステラの側が心地良いなどと、世迷い言を口に出しそうなことがある。それだけは許せない。あんな貧乳厚顔無恥に俺は負けるわけにはいかないのだ。




「絶対に私は諦めない。いくら逃げても袖にされても、私はユウが好き。逃がさない」


 そんな言葉が聴こえた気がするが、きっと気のせいだろう。


 うん、結局俺の許嫁(?)は婚約破棄をしてくれないらしい。



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俺を嫌っているはずの許嫁が婚約破棄をしてくれない 恋狸 @yaera

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