第16話
「さて、テストを始める。今回、実技は無いけど、その代わりに筆記に重きを置くから、赤点などを出さないように」
隣で冷や汗をかくレインがいるが大丈夫だろうか。いや、大丈夫と思いたい。
あれだけ勉強したんだ。幾らレインが馬鹿アホ間抜けメス堕ち王子だとしても赤点は無いだろ。
「いないとは思うけど一応、カンニング対策に隠蔽を施した結界が張ってるから変なことを考えないようにね」
ミラ先生が粛々と締めた。
たかが一学生のテストに国防級の結界を張るのか……。
「僕、大丈夫かな……。あぁ、緊張してきた。国事より緊張するんだけど、ユウ助けて……」
「頑張れ」
「薄情者ぉ!」
そう言われても掛ける言葉はこれくらいしかない。勉強するレインの姿は見たし、テストが始まれば自ずと緊張は解けていくだろう。
「ま、いつも通りにいこうぜ。お前はお前らしく、変に気負うことは無いんだからな」
「ユウ……」
「珍しく良いこと言いますわね」
「や、だって、降級したらもう関われなくなるしな!」
「酷いいいぃ!!」
「やっぱりクズですわ」
涙ぐむレインに優しく声を掛けた俺は、ほんの数秒後に掌を返す。俺がなんの見返りも無しに優しい言葉を掛けると思ったら大間違いだ。
あと、ドリル。お前に言われたくないんだよ同類が。
☆☆☆
「……終わり」
ミラ先生の号令で皆一様に肩を下ろす。
俺も重荷が取り除かれた気分だ。テスト明けというのは清々しくて良い。
さて、レインはどうかな、と隣を見る。
その瞬間俺は全身に鳥肌が立つほどのプレッシャーを感じる。
「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふ……」
レインはボロ泣きしながら笑っていた。
傍目から完全に狂気に犯されたように見えるのは間違いない。少なくとも俺はドン引きしていた。
「お、おい、レイン?」
滅多なことでは動かない鉄の心を持つ俺でさえ、狼狽えながらレインに声を掛ける。
『あぁ、ユウか……』と相も変わらず泣き笑いながらレインはゆっくりと振り向いた。怖い怖い。
「ふふふ、終わったよ、僕は」
「分からなかったのか?」
「違うんだ。勉強の成果もあって理解できたし、すらすら問題を解くこともできたよ」
「じゃあ……」
他に何か問題があったのか。
レインに目で訴えかけると、奴は小さく笑って答えた。
「数学──段ズレした」
「「「「あっ……」」」」
微かに聞き耳を立てていたセリカ以下4人は、レインの言葉に察したようで、何とも言えない表情をしていた。これまた珍しくそこにはステラも含まれていた。
「メス堕ち王子、本当に堕ちる……」
「やめろ、それは洒落にならん」
「うっ、うっ、ひぐっ……」
最近泣いてばかりだな、こいつ。
しかし段ズレとはまた厄介な……。見直しって知らないのか。
「で、でも、残り時間一分で気づいて書き直したんだ。でも、間に合わなくて……」
「まだチャンスはあるということか。それに他の教科が良ければ情状酌量の余地があるかもしれん」
「まだ諦めるには早いですわよ」
「折角あたしが勉強教えてあげたんだから、途中で降りるのはやめてよね」
「みんな……」
お前ら全員レインのために勉強会参加しなかったのに、こんな時だけ都合の良い言葉を吐けるのか、すげぇな!
まあ、セリカだけは本心っぽいが。Aクラスに所属してんのにクズ適性低いんだよなぁ。俺らみたいにならないなら喜ばしいね。
「レイン。とりあえず今日はパーと遊ぼうぜ」
「ユウ……。うん! 後は信じるよ! 僕は頑張ってきたんだからきっと大丈夫!」
そ う だ っ た ら 良 い な !
暗黒微笑である。
だって、レインのセリフ。巷で最近話題のフラグというやつではないか。大丈夫って言葉を吐く奴ほど大丈夫じゃないんだよな。
☆☆☆
「王子、数学赤点。他セーフ」
「うわああああああああァァァアアア!!!!」
ほら見ろ。
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