第17話
意外なことに、レインは降級を免れた。
どうやら再試を受け、基準を超えなかった場合のみ降級らしく、ただの段ズレで逃したレインは楽々突破し、死んでいた目は輝きを取り戻した。
絶対に言わないが俺は少しだけ! ほんの少しだけだがホッとしたのは内緒だ。何だかんだ絆されていたらしい。
「ゆーう! 今日の放課後遊ばない?」
ニコニコ微笑みながら手を膝に当て上目遣いで見てくるレイン。控えめに言って何時ものメス、プレゼンツである。
「良いぞ。でも、仮にも王子だろ、お前。許可出てんの?」
「仮にもってなにさ。僕はちゃんとした王子だからね!」
「初対面と比べてこれだよ……。立派なポンコツに変身しちゃってさぁ……」
まだ初対面の頃は理知に溢れ、王子然とした雰囲気に包まれていた。
しかしこの学校に慣れたのか、はたまた俺に慣れたのか、レインは雰囲気が緩くなり有り体に言って馬鹿になった。いや、メス度が増したとも言う。
「ポンコツじゃない! ……許可は出てるよ。ただ王族御用達の店限定だけどね」
「まあ、妥当か。でも、俺みたいな寒門貴族がそんな店に足運んだら顰蹙食らいそうだが」
「人払いは済ませてるし、そこは大丈夫。それになんでったってユウは僕の親友なんでしょ?」
「……まあな」
小さく頬をポリポリ掻きながら俺は呟いた。
返事が無いな、と思い顔を上げると、レインが口をポカンと開けて間抜けな顔を晒していた。
「……なんだよ」
「ユウが……デレた……っ!?」
「デレてねぇわボケぇ!!」
くっそ、気まぐれに言葉に出したといえばこいつは!
☆☆☆
「ユウ、待った?」
「待ったも何も一緒に来たんだろうが」
「いや、ちょっとこのセリフに憧れてて」
「……そのセリフ、恋人に言うやつだぞ」
「えっ!? 友達に対してじゃないの!?」
顔を真っ赤にしてあたふたするレインの頭を小突くと、校門前に止めてある馬車に乗り込んだ。
メス化が進んでるな……誰かこいつを貰ってくれる女はいないのか。
「なあ、レイン。お前彼女欲しいんだろ」
「うん」
「即答かよ。でも、お前今のままじゃ多分無理だぞ」
「うっ……でも、チャンスはまだ……」
「無いな。せめて男らしく振る舞うとかあるだろ? なのに、お前の所作全部が女染みてるんだよ。まず、口調を直してみろ」
ぐぬぬぬ、と唸っているレインだが、俺の言葉が効いたようで何やらブツブツ呟きながら考え込んでいる。
「よし! よ、よう、ユウ。今日は良い人気だね……じゃなくて、だな!」
「うわ、ウケる」
「ちょっとおおおおおお!!!」
レインが掴みかかってくる。馬車の中で暴れんなよ。
つか、モジモジしながら言ってる辺りメス臭が付いて回るんだよ。もう諦めろ。
「いや、お前その表情はあれだろ。男装してる奴が必死に男を取り繕ってる感じだろ。流石だな、メス」
「うぅ……。どうやったら男らしくなれるんだ……」
「知らね」
俺の管轄じゃないんだ。潔く諦めてくれ。
そもそも、王子なんだしどうせ見合い結婚だろ。見た目がどうであれ関係ないと思うがな。
「まあ、追々頑張るよ。……っと着いたみたい」
馬車を降りると、そこには古びた骨董屋があった。注視しなければすぐに埋没してしまいそうな店だ。だからこそ目を引いた。
魔力反応……人を選別する魔法っぽいな。確かにこれは王族御用達だわ。
「ユウは気づいたみたいだね」
「あぁ、これ相当凄腕が魔法付与したな。解けるやつ、数える程だろ」
「うん、この店はね。初代王の頃からある店なんだ。王族と王族の認めた人しか入れない魔道具店で、どれも凄い力を秘めてるんだよ!」
胸を張って自慢気に語るレインだが、俺は普通に呆れていた。
「……お前、俺が言うのもあれだが紹介する人材を考えろよ。もし、お前に取り入って魔道具を利用しようとしてたらどうすんだよ」
しかしレインは事もなさげに答えた。
「ユウならそんなことしないでしょ? 僕の人を見る目は確かだし、ユウはクズだけど悪いクズじゃない」
「褒めてんのか貶してんのか分からねぇわ」
本当にこいつは……。
男にモテるのも分かる気がする。見た目だけじゃない。心根が優しい。慈愛と言っても大差ない。
「はぁ……まあ、お前がやっぱりメスなのは分かった。ほら、行くぞ」
「ちょ、メスってなにさーー!! 僕、今良いこと言ったよね? ちょっとは親友の扱いというのを────」
「あー、ハイハイ分かった気を付けまーす」
「分かってないじゃん!!!」
願わくば、その万人に対する慈愛を悪人に向けることが無ければ良いが。
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読者の性癖を潰します。
レインは男です。
後から女でした的展開は無いです。
ただのメスです。
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