第3話

 俺の学園生活に光明を見出だせた。

 それはまるで、鬱蒼とした森の中に一筋の光が射したような気分である。


 まあ、ステラのことは置いておいて、これからのことだ。

 確か実力順にクラスが割り振られるはずだから、自動的にステラとも同じクラスになることを指す。

 うーむ、婚約破棄後は少し気まずいが、これも俺の夢のためだ。我慢するしかあるまい。


「さて、学友との初対面だ!」


 考え込むのはやめよう、と『Aクラス』と提示されているドアの目の前に立ち塞がった。

 いざ行かん! さあ俺の新たなる輝かしい栄光は目の前────


「ねぇ、あんた邪魔。さっさと入ったら?」

「あ、はい、すみません」


 ────即座に振り向いて頭を下げる。

 あれ、栄光よ何処に。


「……別に謝んなくていいけど」


 顔を上げると、面の食らったような顔をして目をぱちくりする赤毛の女の子がいた。

 赤毛ちゃんはバツの悪そうな表情で避けた俺の横を通って教室に入っていった。


 なんだろ、俺に謝罪をさせたことを気にしたんだろうか。

 いい人そう!(ガバガバ判定)


 まあ、Aクラスで俺に人権は無いに等しいからな。悲しいことに。

 なぜって、まあ俺がこのAクラスで一番爵位が低いからだな。

 男爵→子爵→伯爵→侯爵→公爵→王族、これがこの『メルト王国』の爵位の順だ。

 見ての通り俺は一番低い。

 事前にクラス名簿を見たが、伯爵家一人、侯爵家一人、公爵家一人、王族一人、というなかなか泣きたくなる構成をしていた。

 ステラも公爵家だし、もうまじで意味分かんない。


 いじめられそう。


 普通なら俺みたいな下級貴族は、パーティーとかお茶会で何とか上級貴族に取り入ったりするものだが、俺の父は権力だとかを嫌ってるせいで交流は少ないし、俺自身も数える程しかパーティーに参加していない。

 お陰でクラス名簿を見ても家名から爵位は分かったけど、まったく顔が浮かばない。貴族間の交流は盛んだし俺だけハブられるに違いない!


「あのぉ……すごい厳しい顔してるけど大丈夫……?」


 前途多難な学園生活を思い描いているのが顔に出ていたみたいだ。

 再び振り向いて謝罪を敢行しようと思ったが、俺に声をかけた人物に酷く驚いてしまった。


「ひぇっ、王子!?」


 金髪碧眼。どんな絵画師も紙にえがくことを諦めたほどの美貌は周りに多大なる影響を与える。ぷっくりとした薄ピンクの唇。優しげに瞬く瞳に、耳に掛かった髪を手で鋤く様子はどこか妖艶でドキリとしてしまう。


 ちなみにである。


 

「ひ、悲鳴上げられると悲しいなぁ……」


 しょぼん、と沈んだ表情で肩を落とす王子。

 か、可愛い……とてもじゃないが男とは思えん。や、待てよ? そういえば『プラチナボックスの罠』という言葉があったな。

 開けるまではお宝か、それとも罠か分からない。日常生活でも併用されるこの言葉の通り、俺はまだ王子の(自主規制)を見ていないわけだから、本当に男かどうかは分からないのだ。


「あー、申し訳ありません。普段位の高い方々とお話する機会がありません故、作法、口調に疎くて」

「ううん、これからは学友になるんだからそういう堅苦しいのは気にしないで良いよ。変に畏まれるのも気疲れするから」


 慣れない言葉遣いで謝罪すると、ニパッと笑った王子が実に天使のような提案をした。最後の言葉に関しては遠い目をしていたから、余程苦労したのだろうか。

 王子だから気軽に友達とか作れなさそうだしな。


 よし! 気にしないで良いなら普段通りで以降に。


「じゃ、よろしく。ところで本当に男?」

「うぐっ……! 遠慮が無くなったのは良いけど、いきなり僕のコンプレックスを刺激するのはどうなんだい……?」

「コンプレックスだったのか。良いじゃん、モテそうだし」


 王子はガクッとその場で跪く。ショックの度合いは大きいらしく立ち上がれない程に傷を負ったようだ。

 しかしその容姿があればほいほい女子が寄ってきそうなものだが、王子曰く違うらしい。


「……僕、女性にはモテないんだ」

「には?」

「……男性に求婚される」

「あっ……」


 俺は泣きそうな王子の表情で全てを察した。

 悲しい。あまりに悲しすぎる。


 俺は王子の肩にポンッと手を置いた。


「……安心しろ。俺はお前を好きにならないから。……友達になろうぜ、


 俺が王子……レインの名前を呼ぶと、レインは沈んだ表情から一転、ぱぁと顔を輝かせると笑顔で頷いた。


「うん! ありがとう、ユウ! 友達になろう!」


 軽い気持ちで言ったのだが、予想以上のレインの嬉しがりようにバツが悪くなった俺は誤魔化すように、ニヤッと笑って言った。


「そんな表情するから男にモテるんだぞ」

「酷い!?」


 どういうことさぁ! と問い詰めるレインに軽く対応しながら、俺はよく俺の名前知ってたなぁ……とどうでも良いことを考えるのだった。



 

 あれ、まだ教室入れてないんだが??

 

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