第2話

 今日は待ちに待った王立魔法学園の入学式。ここで学び俺はさらに強さを求めるのだと息を巻く。

 しかし新たな門出。本来ならば笑顔で門を潜るはずだが……


「憂鬱だ……」


 ここには俺の許嫁(破棄予定)もいる。同い年なのだ。俺と比肩し得る才能と魔法の習熟度から、確実に奴は来るだろう。それに、結婚までの期限を卒業までと決めたのだから、俺が来てあいつが来ない道理はない。

 だからこそ憂鬱なのだ。年齢とともに失くしていった表情の冷たさは苦手だし、理路整然と正論を吐き散らして相手を黙らせる論理的な思考は俺に合わない。  


「俺はやり遂げる。なに、あいつだって俺を一時期無視したり小突く程度だけど暴力を振るった。きっと俺のことが嫌いなんだ……そうなんだ」


 若干自分に言い聞かせた節はあるが、言ったことは思い出(苦い)の中に確かに存在しているし、性格も真反対だ。

 俺もあいつも15歳。思春期真っ只中なんだから、異性関係の文句も出てくるに違いない。そうなった時に俺という人間が邪魔になるんだから何も問題はない。呆気なく認めてくれるに違いないさ。


「むんっ!」


 俺はパンッと頬を手で叩いて気合いを入れると、大股気味に学園の門を潜った。


 不安はもう消えている。

 後に残るのは自信だけだ。






☆☆☆


「入学主席、ステラ・グラキエース」

「はい」


 凛とした声が講堂に響くとその声の美しさに、そしてその容姿の整いように、あるものは見惚れ、あるものは畏れた。


 新雪のように穢れを知らぬ真っ白な長い髪。全てを見透かすような青色の瞳。全て均整の取れた顔立ちは、精霊か女神かと神話の存在に置き換えられる程美しい。

 

 その姿は『衝撃』として、静かな講堂内に満ちていった。


 そんな中俺はというと────


「くっそ許さねぇ、主席奪いやがってあの無表情貧乳がよォ……」


 思いっきり悔しがっていた。

 そうです、あの主席が俺の許嫁(破棄予定)です。


 は? 容姿が整ってるからなんだって言うんだよ? それは性格に関係あるのか?

 誰があいつに見惚れようと、俺からの印象は何も変わらない。

 というか、誰かが精霊とか女神とか言ってたけど馬鹿馬鹿しいな。 

 貧乳に悩んで乳製品を頑張って毎日取ろうとする普通の奴でしかないがな。あとは無表情で感情が読みにくい。


 後者が俺にとっては大問題なのだが。


 それにしても主席の座を奪われたことは悔しいの一言に尽きる。

 俺は二位だったのだ。見ず知らずの優秀なやつならまだしも、あいつにだけは負けたくなかった。負けること自体嫌だけど。


「────ました。ステラ・エスペ……失礼しました。ステラ・グラキエース」

「は?」


 悔しさでステラの新入生代表挨拶なんて一言も耳に入ってこなかったが、最後で爆弾を落としてきやがった。

 

 は、お前今なんて言った?


 明らかに俺の家名言おうとしたよな? 

 ……なんの意図があるんだ……。


 そもそもあり得ないが、もし結婚するなら俺からの婿入りだしグラキエース性を名乗るはずだが。

 

「ふざけんなよ、目立つじゃねぇか」


 この新入生の中で、エスペから始まる家名は俺のエスペラント家しかあり得ない。その時点で変な勘繰りをされるのは明白だし、目立つのは悪くないにしても確実に『悪目立ち』だ。


 な、何が目的だ……。


「……なるほどな、分かったぞ」


 少し思考を巡らせると、俺はステラの意図を理解しニヤリと笑みを深めた。


 あいつは俺の醜聞を仕立て上げて婚約破棄をするつもりなのだろう。恐らく今の行為は、その前段階。俺と許嫁だということを匂わせて、それを浸透させてから俺の悪い噂やら何やらを流す。あとは公式の場で婚約破棄を言い渡す。


 俺が許嫁関係を嫌がってることを知らないならば、今の推理はまさしく名推理!

 つまり俺とあいつの行き着く先は一緒だということだ!!


「俺が犠牲になってること以外完璧だな。それにしてもえげつないことを思い付くものだ」


 俺はステラの婚約破棄への全力投球に舌を巻く。

 そんなに嫌がってるなら、俺が婚約破棄しようぜと言えばすぐに事が終わる。


 その後はステラに関わることなく平和に学園を卒業して冒険者になればいい。

 恋とか結婚とかはいつかしたいとは思うが二の次だ。



 はっはー! 勝ったな!

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