第7話

 校門前でレインと別れた俺は夕暮れに染まった帰路を急ぐ────


「ぐぇっ」


 ────つもりだったが、突如現れ俺の服の首もとを掴んだ暴虐なステラによって叶えることができなかった。


「なんのつもりだ」

「一緒に帰ろう」

「は? 迎えは?」

「いらない、ってもう言ってる」


 いやいやいや、お前仮にも公爵家長女だろ。どうなってんだ防犯意識。

 俺の場合は素寒貧の貴族であるエスペラント家の誰かを拐ったところで意味ないし、自衛手段がある俺は危険から身を守ることができる。

 だがステラは別だ。  

 魔法で撃退することは可能でも、万が一ということがあるし、公爵家令嬢を狙うなら実力者を用意することは明白であるから危険だ。


「確かに学園から屋敷は家が近いけど……危険だろ……」

「ん」


 するとステラは、校門の隅に佇んでいる一人の老紳士を指さした。

 その老紳士は俺たちの視線に気づくと、優雅に一礼をした。


「屋敷守んなくていいのかよ、あの人」


 かつて最強と言われた魔術師の一人、ルーン・スペル。今はグラキエース家の執事。

 確かにあの人が護衛なら問題はないが。


「嫌だ。一緒に帰る理由が見つからない」

「許嫁だから。それにユウが断ったらルーンは護衛の任を解くことになってる」

「なっ!? おまっ、それは卑怯じゃねぇか!」


 自らを犠牲にした策だ。

 流石に俺とてステラをその場に置いて逃げることはできない。実に卑怯な手だ。

 ……くそ、仕方ない。


「分かった……」

「じゃあ、帰ろ」


 いつものように無表情だが、その足取りは軽い。……俺と帰ることでどうして機嫌良くなるんだか。

 そうした疑問は次の瞬間に消え去った。


「ん」

「あ? ……は、え、はぁぁ!? お前何で手を繋ぐんだよ!!」


 ふいに手に訪れた柔らかな感触に俺はすっとんきょうな悲鳴を上げるが、ステラは意に介さずこてんと首をかしげた。


「私たちは結婚を約束した仲。手を繋ぐことは何もおかしなことじゃない」

「それは俺が惚れた場合だろ!?」

「じゃあ、惚れさせる作戦」

「じゃあ、ってなんだじゃあって! 良いから離せ!!!」

「嫌」


 俺は無理やり離させようとしたが、却ってステラは俺の指先一本一本全てホールドされてしまい、先程よりも悪い状況に陥った。

 くっ、こいつ意外に力強い!


「ええい、離せええぇ!」


 俺の奮闘むなしく、ステラが俺の手を離すことは家に着くまでに一度もなく、街の人たちにクスクス笑われながら微笑ましい目で見られるという苦行を味わうことになったのだった。



 げ、解せぬ!!

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