第19話

「今の教育界は自主性、自主性とそればかり。くそうるさい、あのクソジジイども」 

「社会の闇が垣間見えてますわよ」


 ミラ先生が来たかと思えば、教壇に立つなり溜まったストレスを俺たちにぶつけてきた件。

 はい、状況説明終了。


 今日も今日とて魔法基礎論の授業である。

 怠惰なわりにちゃんと授業してたから安心していたのだが、ここに来て限界が来たのだろう。できれば最後までその姿勢を維持してほしかった。


「と、いうわけで、上のジジイがうるさいから自主性を重んじた授業をすることにした」

「自主性って、まさか放置するわけじゃないですよね……」


 セリカがジトメでミラ先生を見た。

 俺もそうかなと一瞬思ったが、流石にあり得ないと信じたい。

 ミラ先生は『ふふん』と不敵な笑みを浮かべて俺たちを見渡して言った。


「これから全6回の授業の教師を貴方たちにしてもらうことにしたよ」 

「「「はい?」」」


 俺、レイン、ドリルと声が重なった。

 

「いや、それ結局放置じゃねぇか」


 意味を理解した俺がすかさずツッコむが無視された。おい、教師。


「じゃあ、早速今日はエスペラント。やれ」

「やってじゃなくてやれ、なのか」


 ふむ、だが悪くない。

 皆の魔法行使を見ていれば、幾つか俺なりの改善点は浮かぶし、将来魔術師になりたいやつがいればきっと役に立つだろう。


「よし、じゃあ、練習場集合!」

「急に生き生きし出しましたわね。嫌な予感がしますわ」

「右に同じく」

「ユウの授業はちょっと気になるかも。どうせクズだと思うけど……」

「楽しみ……」


 各々好き勝手なことを宣いながらも、しっかりと着いてきた。レインは許さん。

 ミラ先生は教壇に踞りながら……うん、寝てるな。クソ教師じゃねぇか、仕事しろよ。




☆☆☆



「ユウ・エスペラントの魔法講座! ~誰でもなれるクズのメソッド! ~始めるぞ」

「安っぽいタイトルですわね。二束三文で売り飛ばされる本ではありませんの?」

「ぶっ飛ばすぞお前。俺の出す課題をクリアできなきゃ罰ゲームだからな」

「はぁ!? そんなの聞いてませんわ!」

「ほう? そっかそっか、クリアできる自信がないなら仕方ないかぁ……うんうん。ざーこ!」

「んなっ!!! エスペラントごときの考える課題なんて余裕でクリアしてやりますわよ!!」


 安っぽい挑発に呆気なく乗ったドリルは、むんっ、と腕捲りし気合い充分だ。他の面々は俺たちのやり取りを冷めた目で見ている。実にいつも通りだ。


「さて、お前ら、まずは多対1の戦いを想定してみろ。そうだな、100vs1で良いか。この場合はどう切り抜ける?」


 一応真面目に考えてくれているのか、レイン含む以下は顎に手を当てて考えている。

 

 最初に挙手をしたのはドリルだった。

 上げた右手は天高々と掲げられ、得意げに笑いながら自信満々に胸を張っている。


「分かりましたわ」

「はい、ドリル」

「範囲魔法を叩き込んで混乱してるうちに指揮系統を崩壊させるのですわ!!」

「はい、不正解。罰ゲームな」

「はぁぁ!? そんなはずあるわけないですわ!! 教本にも載ってますわよ!?」

「だからダメなんだよ。教本通りなんて大抵失敗するし、全員が知ってる情報は対策されて終わりだ。もっと頭使えよ単細胞」

「むきぃぃ!!!!」


 頭を掻きむしって地団駄を踏むドリルに満足感を覚えながらも次の回答者を待つ。

 

「……はい」

「セリカか。どうぞ」

「人質を複数人取る」

「クズじゃん。不正解。集団戦、特に戦争とかだと人質は意味を為さないぞ」

「ちっ、あんたのクズ度に則して考えたのに」


 あれ、罵倒されてる?

 ……いや、褒め言葉か。しっかり俺の事を考えてくれたんだもんな!


「はい!」

「おっ、レイン、頼んだぞ」

「うん。ユウのクズ度と、その状況に対する最適解を考えれば……魔法か何かで隠れて、相手が自分を見失ってる間に指揮官を狙撃。動揺しているところを、強そうな人から狙撃。最後は範囲魔法で蒸発させる……?」

「うーん、正解!!!」

「やった!!」


 レインは些か大袈裟だと思えるほどにピョンピョン跳ねながら喜びを露にした。 


「それ、喜んで良いんですの……?」

「あたしらは参考にしない方が良いと思うけど。いや、あんたは別か」

「ちょっと、どういう意味ですの」


 あちらはあちらで何かコソコソ話しているが、所詮正解できなかった負け犬の遠吠えにすぎない。


「はい」

「あ? もう正解したけど?」

「補足。戦場が平地で見渡しが良かった場合、穴を掘って隠れるか、霧の魔法を発動させる」

「霧だと狙撃できねぇじゃん」

「予め指揮官以下強者に追尾魔法を掛ければ良い。そして、戦場に高低差がある場合は向かってくる敵に罠を仕掛けるべき。高低差があれば草とか岩に隠れて看破されにくい」

「ぐぬっ……」


 つらつらと正論を並べるステラに、俺はまたしても負けた気分になって歯を食い縛る。思い付かなかった……。


「珍しく負けてますわね」

「いつも負けてる奴が言うんじゃねぇ……!」

「あぁん? やりますの?? このお嬢パンチで顔面ぶち抜いてやりますわよ?」

「語呂悪。だっさ、子どもかよ」

「ぶっ殺っ!!!」


 殴りかかってきたドリルをヒョイと避けて脳天にチョップを打ち付ける。


「痛いですわ!!」

「殴ろうとしたやつがよく言うわ」


 涙目で頭を押さえて恨めしげに睨むドリルを鼻で笑いながら、俺はステラをジトッと見た。


「……なに? 見惚れた?」

「ちげぇよ!!」


 顔だけ良いのは認めるが、見惚れることは断じて無い。早く婚約破棄してくれねぇかなとはいつも思ってるけど。


「そういえば、喧嘩してるうちに授業終わりそうだよ?」

「え……あぁ!! 本当じゃん……全然何もでこんかった……」


 時間を見ると、終了まで残り五分を切っていた。くそ、ドリルめ恨むぞ……。


 


 よし、罰ゲームはいつかさせよう。

 これで貸しが2つになったな。


 決闘沙汰のあれと今だ。


「ユウ……悪い顔してる」


 と言いながらなぜ嬉しそうな表情なんだ。



「……なんか寒気しましたわ」

「風邪?」

「底知れぬクズの波動ですわね」

「それ自分のことじゃない?」

「捻り潰しますわよ」


 ちゃんとお嬢様しろよ。


 

 

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