第15話
早めの対処がよかったのか熱は1日で引いたが倦怠感が抜けず、結局その週は大学を休んでしまった。
部屋でのんびり過ごしていると、スマホが鳴った。
メッセージの相手は恵だった。
“体調大丈夫か?”
“この間の返事なんだけど”
“今度会ったら聞かせて”
この間のって何だっけ………
あっ、そういえば告白されていたんだった。
レオと色々あったので、恵には悪いがすっかり忘れてしまっていた。
どう返信していいのか分からずタイミングを逃してしまい、結局スルーしてしまった。
スマホを置き、ベッドにもぐりこむ。
私はどんどん学校に行くのが億劫で憂鬱になってきていた。
その時、いつものノックの音が聞こえた。
私は居留守を決め込むが、ドアは返事を待つでもなく開かれた。
「ひめ花、眠ってる?」
「…レオ、勝手に入ってこないでくれる。」
「何だ、起きてるじゃん。元気になった?」
相変わらずマイペースなレオに、最近の私の心は振り回されていた。
「だいぶんね。来週からは学校にも行くから。」
「そうなの?それじゃあその前にどこ行こうか?」
レオがドアを閉めスタスタと向かってきたので、私は仕方なくベッドから出て縁に座る。
「どこって…レオ、どこか出かけるの?」
「治ったら時間作ってくれるって言ったじゃん。忘れちゃった?」
熱に浮かされていた時の約束なんて、はっきり言ってうろ覚えだった。
私はつい言葉に詰まってしまうが、レオはそれを気にせず話を進める。
「ショッピングなんてどう?俺の服選んでよ。」
「私が?無理よ。」
レオは私の隣に座ると、私の左手を取った。
「それで、俺がひめ花の服選んであげる。」
「自分の服は自分で選ぶから結構よ。」
何とか離れようとするが、レオは逃がしてくれなかった。
「ひめ花の事、足のてっぺんからつま先まで俺色に染めたい。」
そう言いながら、レオは私の指や手に唇を這わせキスをする。
「ねえ、いいだろ?っていうか、いいって言うまで離さない。」
レオは笑顔だったけど、有無を言わせない感じだった。
「…それって脅かされてるみたい。」
「俺がひめ花にそんな怖い事するわけないだろ。お願いだよ、お願い。」
私はレオが唇で触れ続ける左手に神経が集中してしまい、他への注意が散漫になっていた。
「…それとも、他の事でのいいけど。」
「例えば?」
私の返答を聞き終わる前に、レオは私をベッドに押し倒した。
私の上に覆いかぶさったレオは、顔がくっつきそうなほど近かった。
「レオ?」
「この間の続き、する?」
「この間って…」
「一緒にシャンパン飲んだ夜。」
あの夜の事はうっすら覚えていた。
思い出すと恥ずかしくて、消えてしまいたくなる。
「あの夜のひめ花は素直でかわいかったな。」
「よく覚えてないから。レオも忘れて。」
思わず顔を背けるが、レオの手が私を自分の方へ向けた。
「忘れないよ。あの日のひめ花は本当にアンジェロみたいだった。」
「レオ…」
「ねえ、キスしてもいい?」
改めて聞かれると、何とも答えにくい質問をされる。
困ってしまって黙り込んでしまうと、レオが私のあごに手をかけた。
「沈黙は肯定とみなすよ。」
レオはそう言うと、私にキスした。
「やっぱり甘いな、ひめ花は。」
「もういいでしょ。」
「ダメだって。もう何日してないと思ってんの?」
レオは私を開放してくれず、また唇をふさいだ。
唇を重ね、離しては呪文のようにレオが囁く。
「ひめ花、好きだ。」
繰り返されていると、どんどん思考が麻痺してくるような気がした。
レオの唇が私の口から離れ、首元にキスをする。
ゾクゾクッとした感じた事のない感覚が私の体を襲った。
レオは私の反応を確かめるように何度も首筋に唇を這わせた。
私は吐息が漏れるのを我慢できなくなってくるのを自分でも感じていた。
「レオ…もうやめて…」
私の声は弱々しく、手を放されているのに、そのまま動くことが出来なかった。
そんな私を見て、レオは何も言わないまま私の胸に顔をうずめようとした。
「やっ、ダメっ。」
私は思わず体をよじらせてかわそうとする。
レオはやっと顔を上げ、私をじっと見つめた。
「嫌なの?俺の事また嫌いって言う?」
この間の事を根に持っているのはどうやらレオの方だったみたい。
「そんなことは言わないけど…でも…」
「まだ俺の事そこまで好きじゃないから?」
「そんなことは言ってない。」
「じゃあ好き?」
今日のレオは私を困らせに来たのかと思うほどだった。
嫌いじゃないなら好きなんてそんな簡単な事じゃなかったけど、その場の空気に流されるように私はコクンと首を縦に振る。
「ちゃんと俺に分かるように言ってくれない?」
「…レオの事、好きよ。」
「ホントに?」
「本当よ。」
レオは微笑みを浮かべ嬉しそうに話す。
「じゃあ俺に任せておいて。ひめ花は何にもしなくていいから。」
「…いったいこれ以上何するつもり?」
「もちろん、最後までするつもり。もう黙って。」
口を塞がれそうになるのを、私は何とか避けた。
「待って。レオ、お願い。」
「待てない。大丈夫、優しくするから。」
「そういうんじゃなくて。お願いだから止まって。」
私の懇願に、レオは一息ついて一旦停止した。
「オッケー、何が気に入らない?」
「気に入らないだなんて…」
「俺とするのがそんなに嫌?」
そんな質問には恥ずかしくて答えたくなかったけど、何とか首を横に振った。
「でも、ママやルカが入ってくるかもしれないし…」
「鍵かけておけばいいじゃん。」
「お風呂にも入ってないし…」
「俺は全然気にならないけど。何なら今から一緒に入ってくる?」
思い切り首を横に振る。
「…それに一番は…怖いの。」
「怖い?何が?」
「レオが今まで付き合ってきた人達と比べられるのが。」
「そんな事するわけないだろ。」
「レオはいつも綺麗な人たちに囲まれているから。」
「大体あんな大女たちは俺の趣味じゃない。」
不安要素はいくらでも芽生えてきた。
「俺の事、100%信用できないってわけだ。」
レオはふてくされてしまったようで私から離れベッドから降りると、ドアに向かった。
「どこいくの?」
私もベッドから上体を起こした
「どこでもいいだろ。」
「よくない。」
「何で、これ以上俺に用はないだろ。」
「レオの事好きだから、きちんと話したいの。」
このセリフは割と聞いたようだった。
レオはちょっと表情を和らげると、近くの椅子に腰かけた。
「もう少し時間をちょうだい。」
「それってどれくらい?」
「わからないけど…レオとの事ちゃんと考えるから。」
レオは何か考えるようにうつむいて、髪をクシャクシャと触った。
しばらくの沈黙の後、レオは立ち上がり私の横に座ると私を抱き上げ足の上に座らせた。
「わかった、待つよ。でも俺、気が長い方じゃないから。」
レオは私の首の付け根に口づけすると、そこをきつく吸う。
「これが消えるまでに俺の事受け入れる覚悟決めておいて。」
そう言うと私を下ろし、部屋から出て行った。
何をされたのか気付くのに時間がかかったが、鏡をのぞくとそこには赤いあざのようなものがあった。
「これって、キスマーク?」
ここにレオが口づけしたのかと思うとすごく意識が集中してしまう。
しばらく首の空いた服は切れないな。
これっていつ消えるんだろう。
消えたら私どうなっちゃうの?
レオの残した小さな痕跡は、私の心を乱すのに充分だった。
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