第24話
「…ひめ花、起きて。ひめ花。」
レオに起こされ、しょぼしょぼする目を何とか開ける。
「何?どうしたの?」
「海に行こう。」
時計を見ると、夜明け前だった。
「まだ早いじゃない。もっと明るくなってからでいいでしょ。」
「今行きたいんだって。起きて。」
私はしぶしぶ体を起こす。
「早く、着替えなら喜んで手伝うけど。」
「大丈夫、一人で着替えられるから。」
心地の良いベッドから何とか出ると、私はとりあえず顔を洗いに洗面台へ向かった。
何とか準備を済ませた私を、レオは急かす様に外に連れ出した。
吐く息が白い。
空を見上げるとまだ星の瞬きが見える。
「綺麗ね。これを見せたかったの?」
「違う。もうちょっと待ってて。」
急げと言ったり待てと言ったり、今朝のレオはせわしなかった。
「…ほら、見て。」
レオが指さす方向を見ると、そこからは朝日が顔をのぞかせていた。
私は海から登る太陽を見るのは生まれて初めてだった。
海面に光が反射してキラキラと輝いている。
神秘的な光景に私はうっとりと眺めていた。
「ひめ花、これ。」
レオがポケットから何かを取り出す。
それは小さな箱だった。
「何?」
「プレゼント。開けてみて。」
差し出されたリボンがかかった箱を受け取ると、緊張しながら開けた。
中に入っていたのはペアリングだった。
「これ…」
「虫よけになるかと思って。」
「誰の?私の?」
「お互いの。これつけておけば、変なのは寄ってこないだろ。」
レオは何だか照れていた。
「…どの指に着けるの?」
「ひめ花の好きな指でいいよ。」
私は少しためらったが、そっと右手を差し出す。
「つけて?」
「こっちがいいの?」
「うん、お願い。」
レオは少し不満そうだったけど、それでも右手の薬指に指輪をはめてくれた。
サイズはぴったりで、朝日にかざすと指輪もキラキラと輝いた。
「私もレオに着けてあげる。」
「俺も右手?」
「そう。手、出して?」
レオがゆっくりと右手を差し出した。
「右手の薬指の指輪はね…」
レオに指輪をはめながら私が言う。
「恋人がいますって意味なのよ。」
「そうなの?」
「だから今は、こっちでいいの。」
「…今は?」
「そうよ。もしこの先、ずっと二人でいられる日が来たら…」
「来たら?」
「その時は左の薬指にちゃんと着けるから。」
私が笑うと、レオも笑った。
「オッケー。じゃあ、予約だけしておいてもいい?」
「予約?」
レオは訝しがる私の左手を取ると、薬指にキスをした。
「予約の取り消しは受け付けてないわよ。」
「そんな気はさらさらないね。何なら、今日左手の分も買いに行こうか?」
「それはいい、まだ大丈夫。」
太陽はすっかり登り切って、あたりは明るくなっていた。
「戻ろうか?」
レオに促され、私たちはホテルへと向かった。
「うん、すっかり冷えちゃった。」
「俺があっためてあげる。」
「それは遠慮しておくわ。」
「何で、疲れちゃうから?」
「そんなの聞かないでしょ、普通。」
「ひめ花はいつもかわいいけど、俺の腕の中にいるときが一番かわいい。」
「それはありがと。」
「俺しか知らないひめ花の顔、見たいな。」
「とりあえず、早く戻ろう。凍えちゃう。」
「また一緒にお風呂に入る?」
「入らないから。」
たわいもない会話を交わしながら、私たちは幸せな気分でホテルに戻った。
きっとこんな日が永遠に続くことを予感しながら。
ひめとライオン 茉白 @yasuebi
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