第23話
新幹線とローカル線を乗り継いで着いたのは、趣のある小さなホテルだった。
「いらっしゃいませ、ようこそおいでくださいました。」
丁寧な接客に私は少し緊張するが、レオは慣れたものだった。
部屋に案内されると、大きな窓からは一面の海が見渡せた。
「すごーい。」
ホテルの人がいる事を失念してしまい、思わず私は歓声をあげる。
「かわいらしいお連れさんですね。」
「そうなんです。あんなかわいい生き物、なかなか見つけられませんよ。」
レオが話しているのは聞こえないふりをすることにした。
二人きりになると、レオは窓辺の私を背後から抱きしめた。
「やっと二人きりになれたね。」
「そうね、どうする?夕飯まで時間あるし、砂浜でも散策してこない?」
「少し休憩しない?俺、疲れちゃった。」
「せっかく遠くまで来たのにもったいなくない?」
「今はひめ花とこうしていたい。ダメ?」
「でもそれじゃあ、いつもと同じじゃない。」
「同じじゃない。海が見える。」
レオは私を出窓のスペースに座らせると、私を見つめた。
「かわいいひめ花、俺のアンジェ…」
…このセリフはやばいやつだ。
キスされそうになるのを何とかかかわす。
「アンジェにはならないわよ。まだこんなに明るいじゃない。」
「俺は気にしないよ。」
レオはお構いなしにどんどん迫ってくる。
「疲れてるんじゃないの?」
「うん、だからひめ花の元気分けて?」
余計疲れるだけだと思うんだけど。
「ひめ花、好きだよ。愛してる。」
いつものように耳元で囁かれ、うなじにキスをする。
レオの両手は、私を抱きしめるように優しく背中を動いていた。
弱いところを責められて、私の抵抗もだんだん弱くなっていく。
強く拒まない私に、レオの動きはどんどん大胆になった。
結果、私たちは夕飯までの間部屋で過ごすことになった。
「ひめ花、お風呂に行こう。」
「行こうって…部屋にあるじゃない。」
「貸しきりの露天風呂があるんだ。」
夕飯の後、レオが嬉しそうに言った。。
「貸しきりって…一緒に入るの?」
「もちろん、当たり前じゃん。」
「ヤだ、恥ずかしいもん。」
「何をいまさら。さっきだって見ただろ。」
「それとこれとは違うの。」
レオが少し拗ねた表情をする。
「お風呂はまだ一緒に入った事ないだろ。楽しみにしてたのに。」
なんだか拒否するのも悪いような気がしてきた。
私は一つ息をつく。
「しょうがないな、今回は特別だからね。」
「やった、じゃあ早支度して。」
私はレオに急かされて、準備を始める。
「俺がひめ花の事、洗ってあげるから。」
「それは結構です。」
「えー、なんで。」
「そんな事するんなら行かない。」
私は準備の手を止めた。
「わかった、わかりました。おとなしくしてるから。」
「変な事したら、すぐにあがるからね。」
「わかったってば、早く行こう。」
本当に行かないと言い出す前に、レオは私を貸しきり風呂へと案内した。
温泉ですっかり長湯してしまい、身体がポカポカして気持ちよかった。
部屋に戻り、ベッドに身体を横たえる。
今日はたくさん移動したのでとても疲れていた。
「ひめ花、風邪ひくからちゃんと中に入って。」
「大丈夫。まだ寝ないから。」
「そんなこと言って。もう目が開いてないじゃん。」
レオの声が夢うつつに聞こえてくる。
「レオ。」
「何?」
「今日はありがとう。楽しかった…」
「ひめ花?」
「ごめん、本当にもう眠…」
ギリギリ意識を保ちながら、私は会話しようと頑張っていた。
「謝らなくていいよ。ほら、今日はもう寝よう。」
レオはベッドカバーをめくり、私を抱き上げると一緒に入った。
ほんの少し残されていた意識が、ベッドの心地よさによって刈り取られていく。
「お休み、ひめ花。」
「レオ、どこにも行かない?」
「ずっとここにいるよ。」
額にキスをされ、私は安心してあっという間に眠ってしまった。
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