第2話

 シャワーを浴びて髪を乾かすと、少し頭もすっきりした感じだった。

 そのままキッチンに向かうと、ママが朝食の準備をしていた。

「ひめちゃん、おはよう。大丈夫?」

「ママ、おはよう。結構大丈夫だと思うけど。」

「もう、心配したんだからね。ダメじゃない、女の子なんだから。」

 いつ見ても少女のように可憐なママが、心配そうに私に言った。

 いつもうるさいことを言わないママの言葉に、私は余計に反省した。

「ごめんなさい。」

「レオくんが迎えに行ってくれたから良かったようなものの。」

「…何で知ってるの?」

「ひめちゃんが電話かけてきたんじゃない、おうちに。」

「うちに?」

「レオくんに変われって、大きな声ですごかったんだから。」

「…ほんとに?」

「もしかして全然覚えてないの?」

 ママが不安そうに私を見る。

 必死でかぶりを振るが、まだ少々頭が痛かった。

「そんな事ない、大丈夫。ちなみにそれ何時ごろだった?」

「うーん、10時前だったと思うけど。」

 思っていたよりも遥かに早く潰れたらしい。

「一人で歩けないくらいで、レオくんがお部屋まで連れて行ってくれたのよ。」

「そうなの?それで…?」

「レオくんがまかせておいてっていうからおまかせしちゃった。はい。」

 ママが私の前にお味噌汁を置く。

 温かいそれをゆっくり一口飲むと、安心感で身体が満たされるようだった。

「とにかく、女の子なんだからあんまり遅くまでふらふらしないのよ。」

「うん、分かった。」

「あら、珍しく素直な返事をするのね。」

「そう?いつも通りでしょ。」

 何せ、記憶がないのだから言い返すことが出来ないのだ。

 家までどうやって帰ってきたのかについては、さあやの電話とほぼ一緒な内容だった。

 問題はそのあと、部屋でいったいなにがあったのか。


 考え込んでいると、頭上から声がした。

「おはよう。」

「おはよう、レオくん。」

「…おはよう、レオ。」

 気まずそうな私とは反対に、レオは楽しそうだった。

「ひめ花、もう大丈夫か?」

「…うん、昨日はありがと。」

「いいよ、俺にならいつでも連絡して。っていうか、俺以外のやつに連絡なんてしない事。危ないからな。」

 レオが一番危ないような気がするのは私だけなのかしら…

「でも、次からは直電の方がいいかな。夜の家電は何か大変な事があったのかと思って心配だから。」

「………」

「しばらくは大人しくしてるんだな。ひめ花はどうやら飲むと大トラになるみたいだから。」

 昨日の事を思い出したのか、レオは面白そうに笑う。

「まあ、珍しいものが見れたからいいけど。今度は俺と二人で飲みに行こう。」

 そう言うと、私の頭をクシャクシャと撫で髪に軽くキスをする。

 私はこの外国の挨拶的なノリについては、もういちいち反応しないことに決めていた。

「さくらさん、俺にも味噌汁ください。」

 そう言うと、レオは私の隣に腰かけた。

 私は一人足りないことに気付く。

「そういえばルカは?」

「まだ早いから寝てるんじゃないかしら?」

「まさか、昨日の事は知ってるの?」

「昨日は仕事が遅かったから、ルカは知らないはずよ。心配させたくないし、ねえ、レオくん。」

 ママが言う。

「父さんは知らない方がいいでしょうね。」

 レオが言う。

 私は良かったと一息ついた。

「ひめちゃん、ルカの事、そろそろパパって呼んであげないの?」

 ママがちょっと不満そうに言う。

「無理だよ。ルカはママの旦那さんだけど私のパパではないじゃない。」

「さくらさん、そういうものは無理強いしないものですよ。」

 レオが助け舟を出してくれる。

「そうだよ。レオだってママの事、さくらさんって呼ぶじゃない。」

「それはそうだけど…ルカ、娘が出来るってとっても喜んでたのに。」

「そんなに欲しいなら、もう一人作ればいいんじゃない?」

「やだっ、ひめちゃんったら!」

「ごちそうさまでした。」

 顔を真っ赤にして恥ずかしがっているママに背を向け、私はキッチンを後にした。

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