ひめとライオン

茉白

第1話

 目が覚めたら頭が痛い。

 これが二日酔いってやつ…

 夕べは初めてにしては飲みすぎたみたいだった。

 窓から朝日が差し込んでいて薄明るい。

 見慣れた景色で自分の部屋であることはかろうじてわかるけど、どうやって帰って来たか思い出せない。

 時計を見るとまだ5時だった。

 今日は土曜日だったっけ?

 取りあえずもう少し寝ようと寝返りを打つと、隣で誰か寝ているのに気づいてドキンと心臓が鳴った。

 音を立てないようにそっとのぞき込むと、それはよく知ってる相手だったので思わずうなってしまった。

 レオだ。

 その時自分が下着しか身に着けていないことに気付き、ぎょっとして反射的に体を隠した。

 いったい何があったのか、全然訳が分からない。

 ズキズキと痛む頭を抱えて混乱していると、隣で男が目を覚ました。

 うっすらと目を開けてこちらを見る。

「おはよう、ガッティーナ。よく眠れた?」

 綺麗な顔がにっこりと微笑んで言う。

「…昨日いったい何があったの?」

「覚えてない?まあ、あれだけ酔っぱらってたからね。」

「…どうして私のベッドにいるの?」

「どうしてって、夕べ、ひめが俺のこと離さなかったから。」

 レオは全く悪びれる様子がない。

 私は全く記憶が蘇って来なかった。

「覚えてないの?ひどいな、あんなに俺の事振り回しておいて。」

「…私、レオに何かした?」

「色々ね。思い出させてあげてもいいけど。」

 からかうようにそう言って、レオはふいっと近くに身体を寄せる。

 それから逃げるように私は思わず後ろに下がり、ベッドから落ちそうになった。

「まあいいや、夕べの事はひめ花に一つ貸しだから。」

「貸しって…」

「今のところは取りあえず大人しく引き上げるよ。」

 そう言って、レオはベッドから起き上がると一伸びした。

 その上半身が裸であることに、私は慌てて目を逸らす。

「何で服着てないの!」

「ひめ花に奪われちゃったから。」

 レオが指さす先にはシャツを握りしめる私の右手があった。

「酔っぱらってるひめ花もかわいかったよ。」

 もう一度にっこり笑ってそう言い残し、レオは悠々と部屋を出て行った。

 私はそれをただただ茫然と見送ることしかできずにいた。

 静かにドアが閉まると、右手に残されたシャツを見つめ一人自己嫌悪に陥ってしまった。


 昨晩は二十歳の誕生日を気の置けない仲間にお祝いしてもらい、超ご機嫌だった。

 初めて飲むお酒は想像していたよりなかなか美味しく、大人気分を楽しむようにグラスを傾けた。

 が、気が付けばこの状態で、いったい何がどうなったのか見当もつかない。。

 私はスマホを手に取り、電話をかけた。

 長いコール音ののち、やっとつながった相手は昨日一緒に飲んだ友人の一人、さあやだった。

「なあに…ひめ?まだ6時前じゃない。」

 眠そうな声がスマホの向こう側から聞こえてくる。

「さあや!昨日の事なんだけど。」

「ああ、ひめったらあっという間に潰れちゃったから覚えてないんでしょう。」

 図星を突かれてしまい、思わず言葉に詰まる。

「大丈夫?ちゃんとナイトがお迎えに来てくれたから心配してなかったんだけど。」

「お迎えって。なんでよりによってあれが来るのよ?」

「ひめが呼ぶんだって聞かなかったからでしょ。」

「私が?」

「そういうこと。詳しい話は今度学校でいい?こっちはさっき帰ってきたばっかりなんだからね。おやすみ。」

 そう言うと、あっという間にさあやは電話を切ってしまった。

 自分がレオを呼びつけて迎えに来てもらったことは何となく分かった。

 そのあとは?

 部屋まで一緒に来てそのあとは?

 何で服を着ていないのだろう。

 何かあったのか、何もなかったのか、記憶がすっぽりと抜け落ちていた。

 思い出そうとするのを二日酔いの頭が邪魔をする。

 取りあえずこれを何とかする事にした私は、ノロノロとベッドから這いずりだすと、着替えの準備をして浴室へ向かった。

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