第19話
深夜0時、私はパジャマでドアをノックする。
中から返事はなかった。
眠ってしまったのかしらと思っていると、静かにドアが開いた。
「ひめ花?どうした、こんな遅くに。」
レオは本でも読んでいたのか、めずらしく眼鏡をかけていた。
「…入ってもいい?」
「いいけど、どうした?」
私はそれに答えず、部屋の中へと入っていく。
サイドテーブルの明かりだけが部屋を灯していた。
「今日は、本当にありがと。」
「俺、かっこわるいな。いつもあんなにひめ花の事守るって言ってたくせに。」
「充分守ってもらったと思ってる。でも…」
私は言葉を濁らせた。
「でも?」
「…さっきの事がずっと頭から離れないの。そしたらすごく気分が重くって。」
「俺に何かできる?」
レオが心配そうに私を見つめる。
「…さっきの続きして欲しいの。」
「続きって?」
「触られたところ全部上書きして…」
レオは少し驚いた表情を浮かべた。
「俺でいいの?」
「レオがいい。お願い…」
私は恥ずかしくなって、その場から動けなくなってしまった。
レオがゆっくり近づいてくる。
「どこ触られたの?」
「…手、握られた。」
レオは私の手をそっと持ち上げると時間をかけてキスをした。
「他には?」
「腕とか肩とか、抱きしめられたから。」
レオの長くてしなやかな腕の中にすっぽりと包まれる。
私は、身体の中が満たされていく様な不思議な感じがした。
「他には?」
私を抱きしめながらレオが聞く。
「…キスされた…」
「それは、さっき上書きしたはずだけど。」
「…お願い。」
私は精いっぱいの勇気を振り絞って、レオに顔を向け瞳を閉じた。
レオの近づく気配がして、唇が触れあった。
唇をついばむようなキスを何度かされるが、私はそれでは足りなかった。
「もっとして…」
レオの首に腕を回すと少し強めに唇を押し当て、そっと舌で舐めた。
それが合図だったかのように、レオの舌が私の中に入ってくる。
ああ、甘いのは私じゃなくてレオの方だ。
柔らかく絡みつくその感触に身体の芯が痺れてとろけそうだった。
ひざの力が抜け、一人で立っていられなくなるまでレオのキスは続いた。
レオは私をお姫様抱っこで持ち上げると、ベッドに横たえる。
「…ひめ花が誘ったんだからな。もう、我慢できない。」
眼鏡をはずしサイドボードの上に置くと、レオは私に覆いかぶさってきた。
「ひめ花、今日は待ってって言わないんだな。」
「もう、レオ以外の人に触られたくないの。」
私はレオの腕にそっと触れた。
「ひめ花…」
「レオが本当は私の事だけ好きじゃなくてもいいの。今は私だけのものになって。」
「…好きだ、俺のアンジェ。ひめ花だけだよ、本当に。」
レオは私にキスしながら、器用に服を脱いでゆく。
吸い寄せられるように、レオの上半身を手で撫でると、それは滑らかな肌触りだった。
「怖い?」
「…少し。でも、レオになら…」
「出来るだけ優しくするから…」
レオは私のパジャマのボタンをひとつづつゆっくりと外していく。
キスから先どうするのかは知識として知ってはいたけれど、初めての事だったのでどうしていいのかわからなかった。
「レオ、私何すればいい?」
「ひめ花は何にもしなくっていいよ。俺の事だけ考えてて。」
言われなくっても、頭の中はレオで一杯だった。
「レオ、私…」
シーっと人差し指で私の唇に触れる。
「もう黙って。嫌な時だけ嫌って言って。」
そう言われると、もうどうともしようがなかった。
「愛してる、ひめ花が好きだ。」
レオは私に触れている間中ずっと、魔法の呪文のように唱え続けていた。
私は熱に浮かされた時のように、夢と現実を行ったり来たりしている様だった。
私たちはゆっくり、だけど確実に距離を縮めた。
そして私は求められるままそれに応じ、iいつしか一つになった。
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