第17話
授業が終わり駐車場に行くと、恵はもう到着していた。
「ごめん、待った?」
「そうでもないよ。」
「…あのね、この間の返事なんだけど。」
「帰りながら聞くよ。乗って。」
恵は車に乗り込むと、助手席のドアを開けた。
少しためらいがあったけど、私は車に乗り込んだ。
エンジンがかかり、車が動き出す。
「久しぶりだな。」
「そうね。」
私はいつも通りに話そうとするが、なかなか言葉が出てこなかった。
「学校で見かけないから、避けられてるのかと思って。」
「先週は風邪で休んでたから…」
「メッセージも帰って来なくなったし。」
「それは…ごめん。」
後ろめたい気持ちもあって、つい謝罪の言葉が口を突いて出た。
「そうだ、ひめ今から予定ある?」
「予定は特にはないけど。」
「一緒に夕飯食べない?快気祝いに奢るから。」
「…今日はやめとく。ご飯いらないって言ってきてないし。」
「今から電話すればいいじゃん。」
「ママがもう準備始めてると思うから。また今度ね。」
「…今度なんてあるのかよ。」
恵がぽつりと呟いた。
「恵?」
急に恵の雰囲気が変わり、私は戸惑いを隠せない。
「とにかく今日は付き合ってもらうから。」
車は家から外れた方向へ向かおうとしていた。
「恵、どこ行くつもり?」
「ゆっくり話の出来るところ。」
私はさあやの言葉を思い出す。
「男はみんなオオカミなのよ。」
私はなすすべもなく、ただ車の振動に揺られていた。
到着したのは海だった。
「どうしても、ひめに見てもらいたくて。」
恵が車から降りたので、私もそれについて行く。
砂浜に到着すると、夕日が海の中に飲み込まれていく所だった。
ブルーとオレンジのコントラストが幻想的で、私は思わずうっとりと眺めていた。
「綺麗。」
「そうだろ。ひめは絶対気に入ると思った。」
恵がほっとしたような声を出す。
「このためにわざわざここまで?」
「この時間しか見れないからな。」
20分ほどで日は完全に沈み、あたりは急に暗くなった。
「戻ろうか。」
恵が手を差し出す。
「一人で歩けるから大丈夫。」
「暗くて足元危ないから。」
恵は強引に私の手を取って歩き出した。
「…違う…」
私は何だか違和感を覚えた。
車についても恵は私の手を離さない。
「乗らないの?」
いつまでも開かない助手席のドアの前で私は恵に問いかけた。
「俺、これからもこんな風にひめの事を喜ばせたい。」
「…恵。」
「この間の返事、聞かせてくれない?」
「今じゃなくちゃダメ?」
「今聞きたいんだ。」
車と恵に挟まれた私は逃げ場がなかった。
私は途方に暮れて恵の顔を見る。
「…違う…」
また違和感に襲われる。
「ごめん。私、恵とは付き合えない。」
「俺じゃダメって事?」
「恵の事、そういう風には見れない。」
「…他に好きなやつ、いるのか?」
あたりは暗く、私が小さく頷くのを恵は見えたのだろうか。
ふいに私は恵に抱きしめられた。
何が起こっているのか状況を把握できない。
「…違う…」
体中が違和感を訴えていた。
「恵、放して。」
「そいつもひめの事好きなのか?」
「放してってば。」
私は必至でもがくが、力でかなうはずもなかった。
「もう、そいつとやったのか?」
「そんなの関係ないでしょ。」
「…まだなんだな。」
わたしは、肯定も否定もしない。
プライベートな事を言うつもりはなかった。
「じゃあ、俺と先にやったら、俺のものになる?」
「バカなこと言わないで。」
顔を上げた瞬間、私は強引にキスをされた。
「…違う、違う、違う…」
意識するより先に身体が動く。
私はありったけの力で、恵を突き飛ばした。
つないだ手の、首の角度の、抱きしめる手の、キスする唇の感触が違った。
自分で自分を抱きしめる。
涙があふれて止まらない。
自分でも知らないうちに、心の中でレオの事を呼び続けていた。
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