第16話

 身体の調子もすっかり良くなり、私は何日かぶりに大学へ行った。

「ひめ、もう大丈夫なの?」

 昼休憩に、学食で私を見つけたさあやが声をかけ横に座る。

「うん、何とかね。」

「なかなか会えないから心配してたんだからね。」

「ありがと。色々あってね。」

「風邪で休んでたんじゃないの?」

「そうなんだけど…考えなくちゃいけないことが山積みでパンクしそうなの。」

「私でよかったら話聞こうか?」

 どれも相談しにくい内容なので、私は少し考える。

「…そのうち話すかも。その時はお願い。」

「わかった。でも、あんまり一人で悩まないでね。」

「ありがと。」

 持つべきものは友達だなと思っていると、後ろから声をかけられた。

「ひめ、さあや。」

 振り向かなくてもわかるその声は、恵に違いなかった。

「恵、今からなの?」

 さあやがそれに答える。

「今日は午後しか授業取ってないから。」

「それは優雅ですこと。」

「そこ座ってもいい?」

 恵が私の前の席を指さす。

「何、改まって。何か悪いものでも食べたの?」

「うるさいな。座るからな。」

 さあやにからかわれながら、恵は席に着いた。

「久しぶり。体調崩してたんだって?」

 いつもと変わらない様子で、恵は私に声をかける。

「…うん。でももう大丈夫だから。」

「そっか、良かった。今日、この後は?」

「4限だけ受けるけど。」

「俺も4限までなんだ。終わったら一緒に帰らない?」

「えっ…」

「休み明けだし、家まで送るよ。」

「えー、いいな。恵、私は?」

 さあやがブーイングをあげる。

「さあやは方向が違うじゃん。元気だし。」

「ひめだけ特別扱いってわけね。」

「そういう事。じゃあ、授業終わったら車の所で待ってて。」

 私が返事する間を与えず、恵は立ち去ってしまった。

「ふーん、とうとう行動に出たか。」

 恵を見送りながら、さあやが面白そうに言う。

「何の事?」

「恵ちゃんも男の子だって事よ。」

「もっとわかりやすく説明してくれない?」

「あんまり無防備だと襲われちゃうからね。」

「恵はそんな事しないわよ。」

 恵はただ、告白の答えを聞きたいのだろう。

 私の答えは決まっていたので、気が重かった。

「いい、男はみんなオオカミなのよ。恵だって例外じゃないからね。」

 諭すようなさあやに、思わず吹き出してしまう。

「恵がオオカミ?柴犬じゃなくて?」

「確かにそうか。」

 さあやも一緒になって笑った。

「帰り道、車で変なところに連れ込まれないように気をつけなさいね。」

 何度も念を押されるので、私は忠告を心の隅に止めておくことにした。

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