第21話

 翌日は朝から学校で、私は昼休みの学食でさあやを探していた。

 さあやはいつもの席に座っていた。

 私を見つけ、軽く手を振る。

「さあや、ありがとう!」

 私は抱きついて、感謝を伝えた。

「何、何の事?」

「この間、レオに連絡してくれたでしょ。」

「ああ、あれね。大丈夫だった?」

「何とかね。でも、どうして…」

「あの日の恵、何かちょっと変だったから。念のためにね。」

 恵がいつもと違うだなんて、私は全く気付いていなかった。

「でも、どうしてレオの電話知ってるの?」

「ひめが酔いつぶれた日に、連絡先の交換したのよ。」

「何で?」

「もしもまた何かあったら、すぐに連絡して欲しいって。」

 私はレオの周到さに驚きを隠せなかった。

「代わりにモデルの男の子紹介してもらう約束しちゃった。」

「まさか、そっちが本命?」

「さあ、どうだろ。ひめにはあんなステキなナイトがいるんだからいいじゃない。」

 さあやは楽しそうに笑った。

「レオ様とは何かあった?」

 レオの話題を振られ、昨日の事を思い出す。

「ひめ、顔が真っ赤だけど?」

「そう?ここ、何だか暑いから。」

 私が手で顔を仰ぐのを、さあやはニヤニヤしながら見ていた。

「ふうん。」

「…何よ。」

「それなりの進展があったみたいでよかったじゃない。」

「何にも言ってないでしょ。」

「はいはい。」

 私は軽くいなされた。

「…まあいいわ。さあやに助けてもらったことに変わりはないんだから。」

「それで、恵にはもう会った?」

 私は首を横に振る。

 実際のところ、会いたい心境ではなかった。

「しばらくは二人で会いたくないや。顔見たら、逃げ出すかも。」

「ナイトは間に合ったんじゃないの?」

「ほんのちょっと遅刻だったかな。」

「恵に何かされたの?」

 心配そうにさあやが聞くので、私は安心してもらいたかった。

「大したことじゃないの。レオが来てくれたから大丈夫だったの。」

「…恵のやつ。許さないんだから。」

「それは私のセリフでしょ。」

「でも…」

「この話はこれでおしまい。さてと、私もなんか食べようかな。」

 私は一旦さあやから離れることにし、恵と鉢合わせしないことを願いながら食券を買いに向かった。


 授業を終え帰ろうとしている私の目に恵の姿が飛び込んできたのは、それから数日後の事だった。

 視線がぶつかった瞬間、私は思わず目を逸らしてしまう。

「ひめ。」

 呼び止められて思わず逃げ出しそうになったけど、同じ大学に通う以上いつまでも避けてはいられなかった。

「…久しぶりだね。」

「そうだな…ちょっと二人で話せない?」

「ごめん。二人っきりになるのはちょっと…ここじゃダメ?」

 私がためらうと、恵はバツの悪い顔をした。

「そうだよな。あんな事したやつと二人になんてなりたくないよな。」

「………」

「あの時の事、謝りたかったんだ。ごめん。」

「…もういいから。」

 周りの喧騒が二人の会話を飲み込むようだった。

「俺、本当にひめの事好きだったんだ。それだけだったのに…」

「…恵。」

「傷つけるつもりなんて無かったんだ。拒絶されてつい…本当にごめん。」

 頭を下げる恵を見て、いろんな感情が入り混じって湧き上がってきた。

「…恵の事、簡単には許せない。」

「うん。」

「私は恵と、もう以前のような関係には戻れない。」

「…うん。」

「次に好きになった人には、あんな事しないであげて。」

「…」

「もう話すことないから行くね。じゃあ。」

 私は早足で立ち去ろうとする。

「あいつ、お前の何なんだ。」

 少し離れたところで、恵が大きな声で言い放った。

 周りの人たちがびっくりして静かになり、恵の方を見る。

 私も振り返ると、負けじと大きな声で恵に向かって叫んだ。

「ナイトよ!一生ものの。」

 恵はちょっと目を見開くと、少しうなだれて小さく手を振った。

 私は前を向いて歩きだし、もう振り返らなかった。

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