第21話 勝負の結果とこれから

 かくして選抜リレーが始まるのであった。


「用意……スタート!」


 出発を知らせるスタートピストルの音とともに、2年生女子たちの足も動く。さすがというべきか、俺のクラスであるE組の陸上部女子は凄まじいスピードでグラウンドを周り、有紗にバトンを渡した。それを受け取った有紗は、ポニーテールの髪を揺らしながら、ものすごいスピードで、走る。あっという間に、間隔は開き、半周程、E組が優っている。


 圧倒的なE組のパフォーマンスに外野の観客の間にどよめきが走る。もちろん、俺も口を半開きにして驚いている。


 やがて有紗が真礼にバトンを渡すと、真礼は圧倒的早さで全力疾走する。


「モブ男くん!」

「は、はい!」


 真礼からバトンを受け取ったモブ男くんは慣れない動きで走り始める。いくら特訓をしたとしても所詮1週間。そんな短い期間に個々人のフィジカルが見間違えるほど向上する訳がない。なので距離はどんどん縮まる一方である。

 

 そしてモブ男くんがモブ助くんにバトンを渡すと、距離はさらに縮まり、A組側から「頑張れ!」とか「追い抜け!」といった応援が耳を打つ。


 まだ追い越されてはないが、この流れだと、間違いなく俺のタイミングで逆転されかねない。


 そんなプレッシャーに苛まれていると、モブ助くんは手を伸ばして俺にバトンを渡そうとする。


「古澤くん!」

「ああ!」


 モブ助くんからバトンをもらった俺は歯を食いしばって必死に駆けた。


 けれど、A組のイケイケしたイケメン(笑)は持ち前の身体能力を思う存分発揮し、俺との間隔を縮めていった。


 くそ!このままだと絶対追い抜かれちまう。せっかくの努力が水の泡になってしまう!


 基礎体力、鍛えときゃよかった。アニメ、ラノベ、漫画、そして有紗と真礼とのくんかくんかタイムにうつつを抜かしたばかりに……


 力の差というものを見せつけられた俺の体は徐々に震えてくる。


 二人に格好いいとこ、見せたかったのに……


 俺が二人に釣り合う男だと証明したかったのに……

 

 結局、俺の夢は叶わずじまいというわけか……


 





 だが、






「古澤くん!!!!!!!頑張れ!!!!!!!!!」


 木手山もてやまモテルくんが声を大にし、俺を応援してくれた。


「今まで、君のこと、あまりわからなかったけど、特訓を仕切ってた時の古澤くんは本当に格好良かった!だから諦めるな!」

 

 いつもふんぞりかえる木手山が俺を評価してくれている。


「倫太郎!俺もお前のこと応援してるぜ!だから走れ!いけすかないA組の鼻っ柱をへし折ってくれ!」


 目立ちたがらない野原も声の限りにエールを送っている。


「そうだ!古澤!俺たちが弱小で冴えない男じゃないということをお前が証明してくれ!」

「一位になったら、お前と俺たちは最高になれるんだぜ!」

「お願い!古澤くん!」

「頑張れ!」


 E組の男女が俺にエールを送っている。


 こんな経験、小学校を卒業して以来、一度もなかったのに……


 心の中で何かがみなぎるような気分だ。いつしか体の震えはなくなり、足は軽くなった。


 そう。俺は勝たなきゃならない。勝って汚名を晴らすのだ。女子たちに、そして有紗と真礼に認めてもらうからな!


 そう考えながら俺はスピードを上げた。


 A組のイケメンは必死こいて追い抜こうとするが、俺はそれを許さない。


 やっとフィニッシュラインが見えきた。


 よし!この調子だと、問題ない!

 

 俺たちは、


 E組は


 1……







「ん!ぶああああああ!」


 だが、足のバランスを失い、こけてしまう。やっぱり無理をしたようだ。


 その間に、A組のイケメンが一位をマーク。他のクラスの人たちも続々とやってきて、俺は最下位となった。




X X X


「……」

「……」


 無言というのは時として罵倒よりもダメージが強い。いっそのこと、「お前のせいで負けた!」とか「ばか!死ね!」と罵ってくれれば気が楽なのに……


 結局俺たちのクラスは総合評価で4位となって、一位になったAクラスが優勝トロフィーをもらう姿を遠いところから見つめていた。


 お通夜を彷彿とさせる静けさがしばし続く。だがそれを突き破る存在が現れた。


「ゴメン!俺たちが女子たちの足を引っ張ったせいで負けてしまった!」

「本当に……叩かれてもしょうがない」


 モブ男くんとモブ助くんが深く頭を下げて女子たちに謝った。他の男子たちもそれにならい、一斉に頭を下げる。もちろん俺も。俺の場合は土下座でもするべきだろうか。


 きっとゴミを見るような目で俺たちをあなどるんだろう。優勝の機会を逃してしまったんだ。小学生だった頃のように頑張ってみたが、結果は残酷。どんな扱いでも甘んじて受け入れようではないか。後で男子たちにも謝ろう。


 そう、腹を括っていると、全く予想外の反応が出てきた。


「ううん。私こそ、男子たちを無視しすぎた……」

「全然そんなことないよ!男子たち、すごく頑張ってくれたから、格好良かった!」

「これからはもうバカにしない。ごめんね」


 女子たちは恥ずかしそうに視線を逸らし、俺たちを褒めてくれた。そんな反応を見て男子たちは、表情が緩む。


「ああ!それにしても、一位になったら、モブ奈さんに告白しようとしてたのに!モブ助もモブ子に告白するつもりで張り切って特訓に参加したでしょ?」

「あ、ああ。でも、負けたからしょうがない……」


 モブ男くんとモブ助くんは、ため息混じりにそう言ったが、女子たちは「え?」とか「本当?」とか言いながらモブ奈とモブ子とモブ男とモブ助を交互に見る。


 そして、


「実は……モブ男くんの頑張る姿見て、とてもドキドキしたの……」

「私も、モブ助くんが一番輝いて見えた……」


 マジか。


 いきなりカップルが二組も誕生してしまうのか……


 色恋沙汰には男も女も関係ない。あっという間に、クラスの全員が4人を取り囲った。4人は顔を赤く染める。


 うん……あそこに俺が入る空間はなさそうだな。


 俺は寂しい表情を浮かべ、人気のないところを目指し歩き始める。


 深々とため息をついてから周囲をキョロキョロしていると、裏庭にある体育倉庫が見えた。そして、一人の綺麗な女性が荷物を運ぶ姿が目に入る。

 

 内藤うちふじ先生か。もう体育祭も終わったことだし、荷物を運んでいるらしい。


 普段の俺なら、怖い内藤先生とはなるべく関わらないようにしていたはずだが、今の俺は違った。何かやらないと良心の呵責かしゃくを覚えてしまいそうだ。


 なので、俺は、いろんな道具を運んでいる内藤先生に近づき、話しかける。


「あの……」

「ん?あ、お前、E組のしくじった子か」


 直球すぎるだろ……


「……」

「どうした?」

「俺にも手伝わせてください」

「うん……まあ、いっか。私、他にやることあるから、グラウンドにある道具は全部こっち運んでくれ。そんなに量は多くないから」

「はい……」

「何落ち込んでんだ?シャキッとしろ!」

「ん!」


 ジャージ姿の内藤先生は、俺の背中を思いっきり叩いてから歩き去った。


 んじゃ、片付けやりましょうか……


 と、俺が再度グラウンドへ向かおうとした瞬間、


「倫太郎……」

「倫太郎くん……」

「ん?有紗と真礼?なんでここに?」

「私も手伝ってあげる」

「倫太郎くん一人だと時間かかるでしょ?」


 二人は、顔を赤らめて、モジモジしながら艶かしい声音で俺に言った。








追記


 ここから本格的に始まります



 あと、新作も書いてるので、もしよろしければどうぞ



『暴虐の限りを尽くす最強王国の王の息子に転生した僕が、隣国の姫たちに優しくしたら、結婚を迫られるんだけど……』



 https://kakuyomu.jp/works/16816927860142124140

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