第5話 朝比奈真礼という女の子
「最近、神崎さんの調子がおかしいと思ったら……こんなことしていたなんて……」
俺は条件反射的に神崎有紗を突き放した。俺の行動を不満に思ったのか、神崎有紗が不貞腐れた顔で激おこぷんぷん丸である。
「ちょっと、倫太郎!なんで急に私を押すの!?」
「有紗……ていうか、人がきたから急に突き放すのは当たり前の反応だろ!」
「ふん!」
「なんで拗ねてんた……」
朝比奈真礼は怪訝そうな面持ちで俺たちを観察している。そして、何か閃いたのか、急に人差し指を俺たちに差して話す。
「名前で呼び合うなんて……もしかして、そういう関係なの!?」
「違う!!!なあ有紗」
「……」
おい!なんで急に黙り込んでんの!普段は俺になめ腐った態度でビシバシ言ってくるくせに!
「へえ、なるほど。そういうことだったのね」
と、朝比奈真礼が腕を組んで納得顔でうんうんいう。な、何がそういうことですか?まあ、とにかく、神崎有紗が俺の体の匂いを嗅ぐことで精神的安定を図っていると周りに知れ渡れば、取り返しのつかないことになっちまう。
ここは、下手に出るしか方法がない。
「朝比奈……お願い、見なかったことにしてくれないか」
「へえ、もし嫌だと言ったら?」
「……」
やっぱり、コイツは俺のことを好ましく思っていない。かてて加えて、神崎有紗のことも毛嫌いしている。この状況どう打破すればいいの?
方法は一つしかない。
俺は頭を下げた。
「なんでもいうこと聞くから、このことは内緒にしてくれ。有紗が辛い思いをするのは嫌なんだ!」
「倫太郎……」
「古澤さん……」
俺の発した言葉はちゃんと二人の耳に届いたらしく、学校一の美少女と二番目の美少女は動揺の色を見せる。
だが、それも束の間。神崎有紗がまた飛びついてきた。
「倫太郎!!!!!」
「有紗!!な、なんで急に抱きつくんだい!?お、おい!」
「すうううううううーはあああああああーすうううううううーはああああああ」
「ちょ、やめ!やめんか!朝比奈が見てるぞ!」
「そんなの関係ない!」
「関係ありすぎだろ!」
突然すぎる神崎有紗の行動に、俺と朝比奈真礼は戸惑う。
「ちょ、ちょっと!二人とも!なんなの!?その変態チックなプレイは!?」
「すうーはあー……朝比奈さん、あなたは周りの人にバラす気ないでしょ?知ってるわ」
「ふ、ふーん、どうしてそんなこと断言できるのかしら?」
「すうーはあー……だって、朝比奈さんは気障ったらしくて、うざくて、邪魔くさくて、面倒臭い女の子だけど、陰で悪口を言うクズじゃないから」
「ちょっと!気障ったらしくて、うざくて、邪魔くさくて、面倒臭い女の子って。神崎さんの私への印象、最低じゃん!」
「いいえ……実はこれも結構手加減してあげたの」
「もっと最低ってことか!!!!!」
と、朝比奈真礼は唇をポカンと開けて呆気に取られている。金髪が揺れうごき、どデカいメロン二つもそれに合わせてデーンと揺れる。こうしてみると、朝比奈真礼ってめっちゃ綺麗でセクシーだな。不覚にもそんなことを思っていると、神崎有紗が自分の腕にありったけの力を込めて俺の体を締める。
「うう!有紗!!痛い!」
「今、
「いや、考えてないから!」
「ふーん……」
「まあ、いいわ。朝比奈さん」
「な、なによ……」
「私、こういう人間なの。もうあなたを追い抜きたいとは思わないし、あなたをライバルだとも思ってないの。だから、私に構わないで別のライバルでも探したら?」
神崎有紗の言い分は正しい。口は多少(相当)アレだが、外見と成績で朝比奈真礼には勝てない辛い現実に翻弄される必要はないだろう。自分の能力を向上させるためのスパイシーとして使うなら別に構わないが、度が過ぎると
俺は神崎有紗に……有紗にそんな辛い思いはしてほしくないのだ。けれど、ここで一番大事なのは朝比奈真礼の出方。
そう考えた俺は、心配そうな表情で朝比奈真礼の表情を見つめた。きっと高飛車な態度で
だけど、
「……」
朝比奈真礼は、思い詰めた表情をしていた。潤った目をみると、今にも涙が出てきそう。
「あ、朝比奈?」
気になり、彼女を呼んでみたが、返事は返ってこない。
その代わりに
「あっそう!もういいわ!神崎さんみたいなつまんない子をいじめるような趣味は持ち合わせないの。じゃな!ふん!……バカ……」
そう言って、朝比奈真礼は歩き去る。しばし、その美しい後ろ姿に気を取られていたら、神崎有紗がまた俺の体を締めてきた。
「ん!」
「倫太郎……このまま下校時間まで吸わせて」
「はあ……お前ってやつは(なでなで)」
X X X
朝比奈家
「ただいま戻りました」
お金持ちが住みそうな高級タワーマンションの最上階にある朝比奈家。彼女は厚い玄関扉を開けて中に入った。
すると、日本人離れした美しい金髪女性が朝比奈真礼を迎える。
「お帰りなさい」
「お母さん……」
「真礼、なんで20分も遅れてきたの?」
「学校で、ちょっと用事がありましたので……」
「用事?なんの用事?詳らかに言ってごらんなさい」
「……不純異性交遊をしている生徒を見つけて注意してあげました……」
「あら、真礼は優しい子ね。でも、お母さん、いつも言ってるじゃない。そんなどうでもいい子らに構うのは時間の無駄だって」
「は、はい……だから……なるべく早く済ませて、帰ってきました」
「ふふ。わかったわ。晩御飯は用意してあるから、さっさと食べてから勉強をしなさい」
「はい……」
「まあ、真礼は私の娘だから、次の試験でも全科目一位間違い無しだよね?いつものように」
「はい……」
朝比奈真礼は頭を下げて答えた。お母さんを直視することはダメだ。なぜなら、
褒めることをせず、自分の娘を認めることもない。
『すうーはあー……だって、朝比奈さんは気障ったらしくて、うざくて、邪魔くさくて、面倒臭い女の子だけど、陰で悪口を言うクズじゃないから』
『陰で悪口を言うクズじゃないから』
『陰で悪口を言うクズじゃないから』
『陰で悪口を言うクズじゃないから』
放課後、神崎有紗が放った言葉が朝比奈真礼の胸を駆け巡る。
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