第20話 特訓と体育祭
この日の放課後から、俺のクラスの男子による訓練が幕を開けることとなった。俺に対してひどいことを言ったモブ男くんとモブ助くんは、意外と根はいい人たちで、クラスの男子たちの連絡先や特徴と言った情報を教えてくれるだけでなく、俺の命令に従い、クラスの男子をちゃんと統制してくれた。
俺たちは「クラスの女子に認めてもらう」という共通目標を掲げて特訓に勤しんだ。基礎体力の鍛錬、チームワーク、種目の分析、戦術など、肉体と頭脳、両方を駆使して、体育祭に向けての準備を進めていた。
一つ悲しい事実は、有紗と真礼とのくんかくんかタイムが無くなったと言うこと。
有紗と真礼は、頻繁にLINEで『今日いつ帰るの?』『今、倫太郎くんのベッドにいるけど、早く帰ってほしいな……』みたいなメッセージを送ってきた。おい真礼、勝手に俺の部屋に入んなよ。でも、クラスの男子たちを裏切るわけにはいかない。うん。別にこれは友情なんかじゃない。もし、クラスの冴えない連中に俺が特訓もそこそこに、有紗と真礼とすうーはあーすうーはあするのがバレれば殺されかねないので、それが怖いだけだ。
とまあ、こんな感じで数日が経ち、体育祭が始まった。
クラス対抗という形をとっていて、障害物競争、借物競走、騎馬戦など、定番な種目が用意されていた。もちろん、俺のクラスの女子チームは一言で言えば無敵だった。敵同士だった頃の二人は、本当に怖かったが、同じチームである二人は、身体と頭脳を駆使して猛活躍し、騎馬戦においては、二人だけで、敵チームの
もちろん、男子チームも負けず劣らずで、個々人の力量が問われる試合においては、だいぶ苦戦したが、チームワークが重要な競技においては、抜群のチームワークで次から次へと勝利を勝ち取って行った。
そして体育祭は終盤に差し掛かり、いよいよ選抜リレー。ひとチームあたり、6人が出場する決まりで、俺のクラスは、運動部女子、有紗、真礼、モブ男くん、モブ助くん、そして最後に俺という順である。要するに、俺のバトンが勝負を決める重要な役割を果たすと言って差し支えなかろう。謎のプレッシャに支配されたまま、解説のお調子者の男子が口を開く。
「いよいよ
おい、貧弱男性チームとかいうなよ。実況者まで馬鹿にしやがって……必ず勝って、その生意気な口に雑巾をねじ込んでやる。話し方も何だか腹たつし。
リレーに出場する俺たち6人(陸上部女子、有紗、真礼、モブ男くん、モブ助くん、俺)は、一旦集まった。そして、今まで仕切っていた俺が話を始める。
「みんな、よくもここまで頑張ってくれた。走るのは小細工が通用しない。だから最善を尽くしてちゃんと相手を見てバトンを渡せばいい結果になると思うんだ」
「何言ってんだ?(モブ男)」
「ん?」
「優勝するんでしょ?(モブ助)」
モブ男とモブ助は俺の肩を優しくさすりながら言った。そんな彼らの表情を見て俺はつい頬が緩む。
「ああ。必ず勝ってみせる。女子たちも、一緒に頑張ろう」
「う、うん!ファイト!(陸上部の女子)」
「……」
「……」
だが、答えてくれたのは陸上部の女子だけ、肝心の有紗と真礼は答えずにいる。
やがて
「ふ、ふん〜倫太郎くんって、意外とイケてるとこあるじゃん……」
「……小学生だったころに若返ったのかしら……」
「ん?有紗ちゃん?小学生って、なんの話?」
「い、いや!なんでもないわ!それより、今呼ばれているから早くグラウンドへ行きましょう」
「ふん〜」
と、有紗は含みのある発言を誤魔化すべく、足早にグラウンドへと向かう。その後ろ姿を怪訝そうに見つめる真礼も、細くて長い足を動かす。そして、二人とも、仕切りに後ろを振り向いては、俺の顔を見てきた。なぜか自分らの体操服の半ズボンを思いっきりぎゅっと握り込む。なんだよ。俺、何かした?
俺がキョトンと首を捻っていると、他のクラスの人たちもゾロゾロやってくる。
いよいよ始まるのか……
勝たなければならないチームは男女とも強い、A組。
勝負はいかに?
そして、くんかくんかはいつ?
実は、俺もちょっと二人を堪能できなくてモヤモヤするんだよね……丸一瞬間特訓だったから……
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