第10話 変化

 朝補習が終わり、授業を受けていると、あっという間に昼休み。


「おい倫太郎」

「うん?」

「なんだか、男女数人がお前をチラチラ見てるんだが」

「気にすんな」

「いや、気になるよ。俺の席って倫太郎のすぐ後ろだから」

「……」

「なんか悩みでもある?」

「そ、それはだな……」


 俺が思いつめた表情のまま下を向くと、野原が優しく背中をさすってくれる。


「いいぜ。言いたくなった時に言ってくれ。だって俺たち友達だろ?」

「な、成幸……」


 全く、やめてよ……男なのに惚れそうじゃねーか。俺たちが気色悪いBL雰囲気を放っていると、急に携帯が鳴った。


『ご飯食べたら、また来なさい』


 ああ、またか。俺はため息をついてから携帯をしまう。


「どうした?」

「なんでもない。俺、ちょっとパン買ってくるわ」


 と、昼飯を食べてから、俺はまたあの4階にある扉にやってきた。けれど、今日はいつもと比べて雰囲気が若干違う。もちろんその原因は知っている。


「なんで朝比奈さんも一緒なの?」

「それはだな……」

「どこに行こうが私の勝手なんだけど?」

「朝比奈さん……あなた、また……」


 神崎有紗はすごく悔しそうな表情を浮かべて拳を握り込んでいる。だが、朝比奈真礼は彼女のことを全く気にすることなく


「倫太郎くん!」

「お、おい!ちょっと!朝比奈!」

「くんかくんか……はあ……この匂い……落ち着く……ねえ、倫太郎くんは私が1位じゃなくなっても、ちゃんと受け止めてくれる?」

「そ、それは……」

「答えて……」

「そんなの、当たり前だろ……一位だろうが二位だろうがそんなのどうでもいいから……だから離れて……有紗が見てるよ」

「倫太郎くん……倫太郎くん!」


 切羽詰まった俺の懇願は早速スルーされ朝比奈真礼は、より俺の体に鼻をくっつける。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


「……猫……この、泥棒猫!!!!!!!!!早く倫太郎から離れなさい!!」


 そう叫びながら、鬼気迫る表情で俺と朝比奈真礼をひっぺがそうとする神崎有紗。だが、朝比奈真礼も負けない。


「ん!神崎さん!あなたに倫太郎くんを独り占めする権利はないわ。別に付き合ってる訳でもないでしょ?幼馴染ってだけでなんでも許されると思ったら大間違いだから!」

「うるさい!」


 いつしか、俺は弾き飛ばされて、二人による壮絶なキャットファイト始まった。


「朝比奈さんはなんでも一位で欲しいものを全部独り占めして、本当にムカつくわ!」

「神崎さんこそ!私の気持ちなんか知らないで……」

「泥棒猫!」

「分からずや!」

 

 やばい。これマジでやばいでしょ?思いっきり取っ組み合い始まっちゃってるし……


 確かにやばい状況ではあるけど、それ以上に胸が痛かった。なんでこの二人は戦わねばならないのか。なんでお互いを憎しみあっているのか。


 こんなの、俺が許さない。


 なので、俺は









 ぎゅー


 力を込めて、二人を抱きしめた。


「ん!?」

「ん!?」


 俺は二人の顔を、俺の胸に擦り付けているため、神崎有紗と朝比奈真礼の表情は窺い知れない。されど、さっきみたいに殺伐とした雰囲気はなく、


「すうーはあーすうーはあー」

「くんくん……くんくんくん……」

「匂い……嗅いでるのかよ……」


 俺は、安堵のため息をついてから、昼休みが終わるまで、二人の頭を優しくなでなでしてやった。


 この日を境に、俺たち三人の関係は変わった。


 


追記



そこ変われ


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