第11話 果たしていつもの日常に戻ったのだろうか

数日後の放課後


「なあ、倫太郎」

「ほえ?」

「なんで間抜けた声出してんだ?らしくないよ」


 ぼーとなって窓を眺めていると、野原に声をかけられてつい生返事をしてしまった。俺は基本目立たない穏やかな学校生活を目指しているのがため、いつも神経を尖らせている。「穏やかな学校生活を送りたいのに神経尖らせると意味ないでしょ?」って突っ込んでくるそこのお前!この際だから特別に教えてあげる。

 

 最近、朝比奈真礼(学校一の美少女)と神崎有紗(2番目の美少女)が所構わず、俺の匂いを嗅ぐために猛ダッシュしてくるから、最初は、殺気立った視線に見舞われたんだよ。しかも、学校内で、俺の一挙手一投足を監視す輩まで現れたくらいだから、そりゃ、神経尖らせるしかないだろ?


 けれど、最近はちょっと疲れ気味なので、弛んでいるかもしれん。


 とまあ、とりあえず野原が聞いてきたから、返事返事。


「そう?ちょっと考え事しちゃってな」

「ほお……もしかして、朝比奈さんと神崎さんのこと考えてた?」

「ぎくっ!そ、そそそそそそそそ、ソンアコトナイヨ?」

「キョドリすぎだろ……」

「そりゃ、男たちの視線が痛いんだもん」

「まあ、何があったのか知らんが、あの二人に手出したりしてないよね?」

「出してねーっつーの」

「ははは。それは知ってた」

「なんで断言するんだい?」

「だって、朝比奈さんだよ?神崎さんだよ?あんな美少女と倫太郎がイチャイチャするとか、そんなのありえるわけないじゃん。おそらく、学校のみんなもそう思ってるんじゃないの?」

「……悲しい現実を突きつけんのまじやめろよ」

「それはそうとして、いきなりお好み焼きはいつ行くん?」

「あ、それか……なんか最近、あそこ変な噂立っているよ」

「噂?」

「隣のいきなりタコ焼きの店主のとこに行って『お好み焼きこそが正義だ!タコ焼きは邪道じゃい!』みたいなこと言いながら喧嘩したらしい」

「意味わからん」

「まあ、味自体はすごく美味しいらしいから、土曜に行くか」

「美味しければどうでもいいや。じゃ土曜ね」

「んじゃ、成幸、一緒に帰ろう」

「うん」


 とまーこんな感じで、いつもの平穏な学校生活に戻ったわけである。前みたいに、急に神崎有紗に呼び出されて、放課後の人気のないところで匂い嗅がれることは無くなった。


 そして、さっき野原が言ったように、俺とあの美少女5たちとじゃ釣り合わないのは事実。「もしかして、弱み握ってんじゃないの?」とか言う輩まで現れて、監視される羽目になったが、俺が必死に二人に頼み込んだので、学校内で俺たちが話し合うことは無くなった。


 よし。これでいいんだ。あとは自然消滅を待つのみ。


 学校を出た俺と野原は駅まで一緒に行ってから別れの挨拶をする。


「んじゃ、バイバイ」

「気をつけて帰れよ」


 あとは一人で家へと帰るだけ。野原と一緒だったから怪しまれることもなし。ありがとう!野原!お前はマジで天使だわ!うう、気持ち悪い。そんな本んんんんんんんん当にどうでもいいことを思っていると、家が見えてきた。


 やっと解放されるのか。


 ガチャッ(ドアを開ける音)








「お帰り、倫太郎」

「倫太郎くん!!!」

「お、おい!ちょっと!今帰ってきたばかりだから!朝比奈さん!くっつくな!」


 そう。ご覧の通り、俺が解放されることはない。むしろこれから始まるって感じだな。不幸だ。


「朝比奈さん!抜け駆けは禁止って言ったはずよ!」

「はあ……くんくんくん……倫太郎くん……私、今日も頑張った!褒めて褒めて」

「はいはい……よちよち……偉いでちゅね」

「ふふふ……ありがとう……くんくんくん」

「んんんんんんんんんんんんんんんんん!」


 俺たちの様子を見ていた神崎有紗は、ものっそい顔で迫ってきては、


「倫太郎!!!!!」

「い、いや……まだ靴も脱いでないのに二人で飛び込んできたら……」

「私も、頑張ったから……慰めて……朝比奈さんだけはずるい」

「はあ……はい。わかった。有紗もお疲れ様」

「ふふっ。倫太郎……すうーはあー」

「倫太郎くん!私も名前で呼んでよ!」

「……真礼……」

「倫太郎くん……くんくんくん」


 俺はやれやれとばかりに、二人の頭に手を置いてなでなでをしてあげた。


 約10分間続くこの甘々タイムはあっという間に終わり、二人は、満足気に微笑むと、すっと後ろに下がった。


 それと同時に


 ぐうううううう


 ああ、今日は菓子パンで適当に済ませたから、当たり前の生理現象だ。俺がちょっと気まずそうにしていると、二人は、目を逸らしながら口を開く。


「倫太郎くん」

「うん?」

「お腹すいた?」

「ま、まあなあ」

「倫太郎……」

「何?」



「私たちが作ってあげる」

「私たちが作ってあげる」

「……」


 いつもは匂いだけ嗅いで帰るのに、今日は珍しく食事まで用意すると言ってくる二人。


 ていうか、一応ここおれんちなんだが?なんか立場逆じゃないっすか?いや、もちろん、いやって訳じゃなくて、全然ウェルカムで、最高なんだけど……


 まさか、学校におけるマドンナ的存在の二人が俺のためにご飯を作ってくれるとは……



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る