第17話 新たな嵐

数日後


学校


「倫太郎、そろそろ行く?」

「ああ」


 授業が終わって、放課後となった学校は、笑さざめく声で満ちている。もう、担任先生に呼ばれて、朝比奈真礼との関係についてしつこく問われることも無くなったし、スーツ姿のお兄さんたちに監視されることも無くなった。至って平穏。


 もちろん、俺と神崎有紗と朝比奈真礼が校内でいちゃつくことはない。何もかもがあるべき姿に戻り、生徒たちの俺への認識は、怪しい人物から路傍の石に変わった。なので、俺は野原のふざけた冗談に相槌しながら学校を出た。


「あ、成幸」

「ん?」

「そういえば、最近駅前で『いきなり焼きそば』という店が出来ちゃって、無料クーポンをばら撒いているらしいよ」

「いや、いきなりブームまだ冷めてないのかよ……」

「今度はいきなりタコ焼きといきなりお好み焼きの店主たちがタッグを組んで、新しくできたいきなり焼きそばの店主さんを追い出そうと躍起になってる噂がな……」

「なんでしょっちゅう争ってんだ?」

「まあ、それが人間の性だからな」

「人間の性ね……その割には俺たち一度も戦ったことなくね?」

「それはだな……」

「それは?」

「愛があるからじゃないかな」

「倫太郎、何言ってんだ?お前、そっち趣味?」

「ち、ちげーよ!俺が言いたいのはだな……そう!絆だよ!絆」

「絆ね……その割には俺たち別にこれっと言って接点なくね?最初は、お互い冴えないボッチだったから連んだだけじゃん」

「ボッチの絆なめんなよ。そこいらの陽キャイケメンよりは強いと思うぜ」

「……ぷふっ!ははは……言われてみれば確かに説得力あるね」

「だろう?要するに媒体だ。人間は基本争うことが大好きだけど、ちゃんとした媒体と共通認識と絆さえあれば、奇跡さえも起こせるんだよ。それこそが愛だ」

「うわ……倫太郎が言うと、なんだか胡散臭い」

「うるせ……まあ、なんだ。日曜、ゲーセン行ってから夕飯はいきなり焼きそばな。無料クーポン持ってるで」

「おお、やるじゃん!てか、あんだけ無料クーポン乱発したら、3軒全部潰れるんじゃね?」

「んなの知ったこっちゃない。せいぜい潰しあって、俺たちにタダめしを提供してくれよってのが本音」

「ゲスだね。倫太郎」

「ゲスか……」


 いつかの日にもゲスって言われたか。俺と野原は、しょうもない話を交わしつつ家路についた。


「おかえり。倫太郎」

「倫太郎くん!遅い!」


 玄関ドアを開けると、制服姿の二人が俺を待っていた。なんでも2番目ではあるけど、俺を昔から慕ってくれた幼馴染である黒髪美少女・神崎有紗。白人の血を引き継ぎ、全てが日本人離れしている金髪美少女・朝比奈真礼。


 二人は腕を組んでいて俺を睨みつけている。


「い、いや、学校終わってすぐ直帰したのに、遅いって……」

「倫太郎、野中成幸と私たち、どっちが大事?」

「野原成幸だ。名前間違えんなよ……いや、別にいいだろ。女友達でもあるまいし」

「まあ、そうね。倫太郎が他の女の子と仲良くできるはずがないよね?」

「そうね、私という学校一の美少女がいるのに、他の女の子と、もしイチャイチャしたら、スーツ姿のお兄さんたちに……」

「よ、よせ!もうスーツ着てる人見たら、条件反射的にパニック起こるほどトラウマになってるから!それだけは!」


 俺が全力で手をブンブンして、二人に赦しを乞うと、急に二人が笑い出す。


「ぷふ!冗談よ倫太郎くん!それより、そろそろ晩御飯作るけど何がいい?」

「倫太郎の家には食材もうないから、うちに行って持ってくるわ」

「あ、有紗ちゃん!私も行く!」

「ありがとう。人は大いに越したことないし、真礼さんが一緒に行ってくれたら、助かるわ」

「んじゃ早速行こう!あ、倫太郎くんはここで待っててもいいから」

「あ、ああ。ちなみにメニューは二人の好きなやつでも構わない」


 そう会話を済ませた二人は軽い足取りで俺の家を出る。最初はお互い歪みあっていたのに、いつしか、名前で呼び合う仲になった神崎有紗と朝比奈真礼。


 さっきも言ったが、人間は争わないと気が済まない生き物だ。一位を妬む2位と、2位を貶めてストレスを解消する一位。イバラの道のように見えた二人の関係は劇的に変わった。その根底にあるのはきっと愛。そしてその愛の奥に存在するのは……


 思索に耽っていると、二人が食材を持ってきた。


 俺は満足げに二人を見て頷く。


 夕食が食べ終わったら、愛の奥に存在するあれを共有し合おう。


 そんなことを考えながら俺は美少女二人が作ってくてたご飯お美味しくいただいた。あと、やることはただ一つ。


「すうーはあーすうーはあー」

「くんくん、くんくんくん」

「……(なでなで)」


 俺はこの二人が好きで、この二人も俺のことが好きらしい。けれど、いづれ、俺は一人を選ばないといけない。そんな残酷な事実が待ち受けていることはもちろん知っている。けれど、


「倫太郎……」

「倫太郎くん……」


 二人の愛くるしい姿を見ていると、そんなのはどうでも良くなった。そして、19時30分頃に差し掛かると、決まって、自動車のエンジン音が聞こえる。


「くんくんくん……あ、お母さん来た」

「すうーはあー……もうこんな時間ね……」

「まあ、明日またやればいいから」

「うん……有紗ちゃん!抜け駆けは禁止だからな!」

「ふふっどうでしょうね」

「んんんんん!」


 激おこぷんぷん丸の朝比奈真礼は、唇を噛み締めてから急に俺を睨む。


「どうした?真礼?ん?!」


 唇と唇が重なる短いキス。


 いきなりキスされた俺は戸惑いの色を見せる。


「有紗ちゃん、私をあまり挑発しない方がいいわよ」

「あらごめんなさいね。それより、二番目のキスは真礼さんだったのね」

「二番目?倫太郎くん?これは一体どういうことかしら?」

「有紗!お前っ!余計なことを!」


 朝比奈真礼は俺をものすごい形相で睨みつけた。いや、これはまた修羅場に突入しちゃうのかな……

 

 冷や汗をかいていると、聞き慣れた艶かしい声が俺の耳朶じだを打つ。


「絶倫太郎くん♡今日もモテモテなのね〜」

「京子さん……いつの間に……」

「あ、お母さん!!」


 めっちゃ高そうなワンピースを着ている京子さんが俺の部屋にやってきた。


「真礼、心配しなくてもいいの。もし、有紗ちゃんが先駆けしたら、他校に飛ばしちゃえばいいだけの話だから♡」

「え、え?」

「京子さん……」

 

 頑是がんぜ無い子供のように言う京子さんの姿に俺と神崎有紗はドン引きする。


「ふふっ……そうですね。有紗ちゃんが幼馴染というポジションをいいことに抜け駆けするつもりなら、私だって、理事長の一人娘である特権を徹底的に使うわ!」

「そのイキよ!やっぱり私の娘だわ!うふっ」

 

 とまあ、こんな日常が続いているわけで、嵐が過ぎ去った後に、また新たな嵐がやってくるのは世の常である。

 

「はあ……」


 そんな暗い事実に深々とため息をついていると、朝比奈真礼肩を優しく抑えて俺の部屋から出ようとする京子さんが意味ありげな表情で後ろを振り向き、口を開く。






「絶倫太郎くん、あとで連絡するからね〜絶対出てよね♡」





 新たな嵐がまだやってきてないのに、また新たな嵐が生じるのも世の常である。








追記




 最初から短編を意識しながら書いた作品なので、続編のシナリオは未だ頭の中にありませんが、続編を望む方々が多いので、不定期に続編を投稿して行きます!


 3人以外にも、色んなキャラを登場させて絶倫太郎くんの真価をお見せしましょうw(公開停止くらった辛い過去がありますので露骨な表現は極力控えます)

 

 長編の描くための足場という位置づけではありますけど、こんなに人気が出るとは思いませんでした。


 あと、新作もいっぱい書いているところなのである程度の文字数に達したら、連載して行きます!


 

 

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