第7話 私も二番目になれば甘やかしてくれる?
「んで……朝比奈、何で俺をここに?」
「古澤さん……」
「うん?」
バレないように間隔をあけて4階のドアに来た俺たち二人なのだが、朝比奈真礼は思い詰めた表情でモジモジしている。二人きりの状態。目の前には学校一と言われる金髪美少女。このシチュエーションにドキドキしない男がいれば、そいつのキンタマは飾りでしかないのだ。
朝比奈真礼は、口をもにゅらせながら、恥ずかしそうに顔を逸らし、言葉を発する。
「私も二番目になれば甘やかしてくれる?」
「は?」
本当に「は?」としか答えようがない言葉だった。だって、いつも一位の座を一度も譲ったこともない完璧超美少女である朝比奈真礼だぞ!なのに、二番目になるとか、甘やかしてくれとか……そんな現実離れした朝比奈真礼の態度に戸惑っている俺だが、なんとか言葉を絞り出す。
「いや、全然理解できないんだけど……いきなり二番目とか甘やかしてくれとか」
「そ、そうよね……当たり前な反応だわ。でも、私は本気よ!」
「本気?」
「もう一位なんか嫌!!!!!!!!!!」
「え、え?何いってるんだ?」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!学校の生徒たちも先生も……お母さんも……まるで一位であることが当たり前のように接して……私が一位になるためにどれだけ努力しているのかも知らないで、自分勝手なことばっかり言って!」
「……」
「だから、いつも、相手を蹴落とすことでストレスを発散してきたの」
「お前……だから有紗に対してあんなひどいことを……」
「ごめんなさい……こうでもしないと、私、自我が崩壊しちゃいそうで……」
「い、いや……それは有紗に直接言ったほうがいいと思うよ」
「わかってるけど……でも、私……今まで神崎さんにひどいこと言ったから……それに……」
「それに?」
「これからもっとひどいことするかもだから……」
「ひどいこと?」
要領を得ない朝比奈真礼の話し方に俺はキョトンと小首を傾げた。
「ねえ、古澤さん」
「な、なに?」
「彼女いる?」
「かかかかかかか彼女?」
「うん……」
何それ?食べ物?漫画やアニメでしか接したことがないから俺、ヨクワカラナイナ。ワカラナイヨ!
ふとそんな痛い自分が心の中で
や、やばい……めっちゃいい匂いするし、朝比奈真礼の綺麗な顔がこんなに近くに……
「いるの?」
「いません……」
「じゃ、遠慮する必要はなさそうね」
「え、遠慮?」
一体、何を遠慮していると言うんだ?と、戸惑いの色を見せて後ずさる俺だが、朝比奈さんは逃すまいと、さらに距離を詰めてくる。
そして、彼女は
「私と付き合って」
「はああああ?」
「私と付き合って」
「いや、ちゃんと聞こえたから2回言わんでいい!」
「じゃなんでそんな間抜け面晒してるの?」
「だって、朝比奈さんは学校一の……」
「一位はもうどうでもいいの!もう嫌だ!私は……」
「私は?」
「私は……古澤さんみたいに、優しい男がいいの!!!思い詰めた時に、頭をなでなでして慰めてくれる古澤さんがいいの!」
ドキュン!
やばい!これはやばい!何がやばいって?
いくら一位がいやと言っても、この学校における一番の美少女は朝比奈真礼という女の子だ。
そんな彼女が、自ら付き合って欲しいと願い出たのだ。ぐっとこない男がいるとすれば、そいつのキンタマは確実に単なる飾りでしかない。
けれど、引っかかるところが2点ある。まずそれを確かめる必要がある。
「なあ、朝比奈」
「ほえ?」
やめて!その潤った目でこっち見るのやめて!「はい」って答えたくなっちゃうじゃねーか。我慢だ!我慢!
「あのさ、朝比奈って有紗のことどう思っているの?」
「神崎さんのこと?」
「うん」
俺に問われた朝比奈真礼は、しばし目をパチパチさせては、考えるそぶりを見せる。そして気恥ずかしそうに
「ムカつくけど、いい子……」
「なるほどね」
確かに有紗は朝比奈真礼のことは好ましく思ってない。けれど、
『陰で悪口を言うクズじゃないから』
有紗は朝比奈真礼のことをよく見ている。
だから、
「朝比奈」
「う、うん!」
や、やめろ!その期待に満ちた表情……思わず持ち帰りたくなるじゃねーか!ふとそんな衝動に駆られた俺は、気を紛らすために数回咳払いをして口を開く。
「まず、有紗と仲直りして欲しいんだ」
「な、仲直り……」
「そう。今まで有紗は朝比奈から散々ストレスを受けてきたからな。なのに有紗には何も言わないなんて、そんなの幼馴染として見過ごせない」
「くう……倫太郎くんがそういうなら……」
おい、なんで勝手に名前で呼んでんの?いや全然大歓迎だけど。
「もし、私が有紗と仲直りできたら、付き合ってくれるの?」
「い、いや、まず、それは後で考えようぜ!」
「……わかった」
なんとか丸く収まったっぽい。ズルズル引きずってるだけじゃんって言ってる君!お黙り!
一時的な平和が訪れたことで安堵のため息をついていると、
突然朝比奈真礼が俺に飛び込んできた。
「すうーはあー……」
「お、おい!何やって……」
「なるほど……神崎さんがこの匂いを嗅いで落ち着く理由、わかるかも……すうーはあー」
「ちょっと……一体俺になんの匂いがするってんだよ……」
「すうーはあー」
しばしの間、朝比奈真礼は俺の匂いを堪能した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます