マイベストフレンド・ユアベストフレンド
マイベストフレンド・ユアベストフレンド-1
夕刻時。時間が経つにつれて、窓外から差し込む茜色が段々と色濃くなっていく。
加えて沈黙が場を支配していることもあり、部室は妙な寂寥感に包まれていた。
さて。俺…………
俺は隣にいる人物…………
黒田は…………先程まで白上が座っていた席に視線を向けたまま、固まっていた。
ショックを受けて呆然としてるのかと思ったが、その割には表情は落ち着いている。どちらかと言うと、思案に耽っていて偶発的にそちらの方に視線が向いているだけのように見えた。
やがて、黒田は静かに目を閉じると、ひとつ息を大きく吐いた。
それからおもむろに立ち上がると、部室の窓際の方に歩み寄る。
そして―――
―――バサッ!
短く束ねていた髪の毛を勢いよく解いた。
腰まで届く長い黒髪が、窮屈な空間から解き放たれたかのように目一杯に広がる。
その瞬間と、窓外から差し込む夕日の灯りとのコントラストが絶妙で、まるで高貴な絵画を思わせた。
しかしながら、見惚れる間もなく、黒髪は自重に従い垂れ下がってしまう。
思えば、髪を降ろした黒田の姿を見るのは久しぶりだった。白上と初めて対面したときから今の今まで、黒田はずっと髪の毛を短くまとめていた。
当初はお悩み相談に向けての気合いの表れかと思っていたが、このタイミングで髪の毛を解いたとなると、その予想は案外正しかったのかもしれない。
とまあそんなことを考えていると、黒田は振り返るようにして俺に視線を向けてきた。
さて、どんな怒りの言葉がぶつけてくるのか。そう思い、再び身構えたが―――
「ん-……何であんな突き放すような言い方するかなあ」
「……?」
俺は思わず肩透かしを食らってしまう。
いや、発言そのものは予想通り俺を非難する内容だったが、その物言いが存外穏やかだった。
先程の俺の白上に対する言動は傍から見れば冷酷であり、当然ながら黒田も快く思わなかったはずだ。だからこそ、もっときつく責め立ててくると思っていたのだが……。
そんな俺の混乱を知ってか知らずか、黒田は続ける。
「…………童はぶっきら棒でお世辞にも愛想が良いとは言えないけど、決して性根が腐っているわけじゃない。香恋ちゃんに対する発言も、きっと何か理由があるんだと思う」
「…………」
「だけど、ああいう風に突っぱねるしかなかったの? 香恋ちゃんはただ、君と―――」
「―――俺と友達になりたかった、だろ?」
「……」
黒田が言わんとしたことを、口を挟むような形で代弁する。
彼女はわずかに驚いたように目を瞬かせたが、すぐに口元を緩めた。
「やっぱり、わかってたんだ」
「……気づいてたのか」
「そりゃあね。私から話を振られたときの香恋ちゃんの反応を見れば、何か言いたげだったのは明白。だけど、童は『何も言うことはないんだろ』と決めつけるような発言をした。それって要は、香恋ちゃんが何を言おうとしてるのか察したうえで、あえて口にさせなかったということだよね」
「…………適当にあしらっただけかもしれないぞ」
「それはないでしょ。童がそんなことするはずないもん」
「…………」
―――何だそりゃ。
そんな言葉が思わず口を衝いて出そうになったが、無理矢理飲み込んだ。
黒田の俺に対する過大評価っぷりには解せないところがあるが…………彼女が言っていることは事実だからだ。
「だけど、なぜあんな言い方を? 香恋ちゃんもさすがにショックだったんじゃ……」
しかしながら、あのような態度をとった理由まではわかっていないようで、黒田は軽く首を傾げる。
正直言うと白上の沽券にも関わってくるため、理由を話すのには抵抗があるのだが…………だからと言って、ここにきてはぐらかすのもそれはそれでおかしな話か。
―――悪いな。白上。
そう心の中で白上に詫びを入れつつ、俺は黒田に対して質問を投げ掛けた。
「なあ黒田。出会ったばかりの鉄仮面でどこか他人行儀だった白上と、俺たちと打ち解けてからの人懐っこくて天真爛漫な白上。彼女にとっての、素の性格はどっちだと思う」
さよなら青春、そしてようこそ青春。 絶望太朗 @zetsutarou
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