出掛ける神様①

「今度の休日、気晴らしにどこか遊びに行きませんか?絵を描くための道具も買いに行きたいので!」




鳥居家にお世話になって早一ヶ月。晴人くんを除いて良くしてくれるため、思いの外、下界での生活は悪くはなかった。それでも、いつまでも鳥居家にお世話になるわけにはいかないし、なにより早く天界に戻りたい。しかし、この一ヶ月間、天界に関する情報は全く集まらなかった。それもそのはず、居酒屋での仕事と借りている部屋の行き来くらいしかしていないので、情報が集まらないのも無理はなかった。何とかこの状況を打破したいと思っていたところ、凪沙ちゃんから誘いを受けた。




次の休日、一ヶ月働いてもらった給料を握り締め、待ち合わせ場所である居酒屋の前に向かった。




「あ!神山さん!おはようございます!」




「凪沙ちゃん、おはよ……げ!」




そこには晴人くんが立っていた。




「姉ちゃん、なんでこいつも一緒なんだよ」




それはこっちのセリフだ……。若い女性と二人きりで遊びに行けるチャンスだったのに……。神様はどれだけ残酷なんだ……。あ、俺「元」神様だったっけ……。




「そんなこと言わないの!神山さんに失礼でしょう!晴人だって、さっき了承したじゃない。」




「車運転できるのが姉ちゃんしかいないからしょうがないだろ。父さんと母さんは別に出掛けてるし。目的の場所はチャリでは遠いんだ。一人で行ける距離なら一人で行ってるよ」




「ごめんなさいね、神山さん。晴人、今日彼女さんとデートなの。繁華街に誘ったらしいんだけど、ここから距離が遠いからいつもはお父さんかお母さんが送ってるんだ。でも今日は二人で紅葉を見に行く用事があるから、代わりに私が送ってあげようと思って。ちょうど私も繁華街に用事があるし。」




こいつ、いっちょ前に彼女なんかいるのか。ますます腹が立つな。こちとらバツイチだっつうの。




「繁華街についたら晴人は別行動だから気にしないで下さい。あと、途中で彼女さんも拾っていきますが、そちらも気にしないで下さいね!」




途中で彼女も乗ってくるの?気まずくない?




晴人くんの彼女が乗ってくるなら、俺は助手席のほうが良いだろう。




「なにやってんだよ。助手席は俺が乗るんだ、邪魔」




「え?」




「ごめんなさい、神山さん。晴人、小さい時に後部座席に乗ってる時に事故に遭って怪我したことがあって、それ以来後部座席に座ることが苦手なのよ。」




まぁ、そういうことなら仕方が無いか。普通は助手席の方が事故にあった時に大きな怪我しそうだけど、そういうパターンもあるのか。




後部座席に着席した俺はしばし車に揺られながら、外の景色をぼーっと眺めていた。見ていたというより、前の二人が親しく話すもんだから、立場が無かったのである。それはそれで気楽で良かったが。




しばらくすると、ある一軒の家の前に車が止まった。




「こんにちは、美鈴ちゃん!さぁ乗って乗って!」




美鈴ちゃん?あ、晴人くんの彼女か。途中で乗っけるって言ってたっけ。晴人くんにますます腹が立つ。美鈴ちゃんが凄く可愛らしい子だから。




「凪沙さん、こんにちは!お邪魔しま……す……?」




「あ、その方は神山さん!少し前にゴミ箱に半身を……」




凪沙ちゃん、ゴミ箱の紹介はいい加減やめてくれ……。




晴人くんが助手席に乗っているため、美鈴ちゃんは必然的に後部座席に、しかもよく分からない50過ぎのおじさんの横に座ることになってしまった。その時の美鈴ちゃんの顔ときたら、それはもう自分でも申し訳ないくらい気の毒になった。




こうして、前の方に姉と弟、後ろの方に弟の彼女と「元」神様のおじさんという、謎の構図が出来上がってしまった。早く目的地に着かないものか……。




「どこかご飯食べてから行く?」




勘弁してくれ、凪沙ちゃん……。

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