神様と子供⑥
「晴人兄ちゃんから、ママは凪沙姉ちゃんと喧嘩してるって聞いたよ。だから、その話し合いが終わるまで隣の部屋で一緒に遊んでようって晴人兄ちゃんから言われたんだ。でも、ママたちずうっと喧嘩してるから、嫌になってきちゃった。早く楽しい話しようよ。あと、僕お腹すいた」
そう話し始めたのは、唯斗くんだった。そうだよな。大好きなママが喧嘩してる姿なんて見たくないよな。まして、その相手も唯斗くんが大好きな凪沙お姉ちゃんだもん。大好きな人同士が喧嘩してる姿なんて見たくないよな。
「唯斗の言うとおりだよ。姉ちゃんたち、いつまで喧嘩してるのさ。唯斗に要らない心配させるなよ。俺はそんなことよりも、早く家族旅行の話がしたい」
晴人くんが加勢してきた。口調は決して激しくないものの、唯斗くんのことを心配する兄らしい気持ちから出た口ぶり、また早く仲直りしてほしいという二人の弟らしい気持ちから出た口ぶりだった。
険しかったお姉さんと凪沙ちゃんの顔が少しずつ緩んでいく。それは何か観念したような、あるいは安心したような、何とも言い難かったが、しかし間違いなく良い表情にはなりつつあった。
「晴人、唯斗、ごめんね。そうだよね、こんな話ししてても楽しくないし、なによりお姉ちゃんたちらしくないよね。凪沙、お姉ちゃんが意地張ってた。凪沙は唯斗をちゃんと見てくれてたんだもんね。ごめんね」
「こっちこそ、目を離してしまったのは事実なのに、いつまでも意地張っててごめんなさい。謝るタイミングなんて何度もあったのに、なかなか言い出せなかった。みんなにも、そして神山さんもごめんなさい」
「い、いや、僕は全然。なにはともあれ仲直り出来てよかったね! これで改めて家族旅行の話が出来るね!」
「神山さんの言うとおり! 一件落着ということで、改めて家族旅行の話でもしようじゃねぇか! 俺は日本を飛び出して海外でも良いと思うんだが……」
さっきまで借りてきた猫状態だったお父さんが流暢に話し出した。あなた、まるで自分が解決したみたいに話してるけど、何もしてないからね?
「何か食べながら話しましょうか! 唯斗、何か食べたいものある?」
お母さんも動き出した。まぁ、とにかく和解出来てよかった。やっぱり子供は強いな。唯斗くんもさぞ嬉しかろう。唯斗くん、どんな顔してるかなぁ。
唯斗くんの方を見てみると、……まぁなんとも言えない顔をしている。俺の方を向いて。ど、どんな表情だあれは? 聞きに行きたいけどめちゃくちゃ話しかけづらいな……。
ちょっと、唯斗くんにも「潜入」を使ってみるか。
「(あのおじさん、お姉ちゃんたちの喧嘩をやめさせてくれるんじゃなかったの? いつまでたっても終わらないから、結局僕が止めちゃったじゃん。晴人兄ちゃんは期待しない方が良いって言ってたけど、たしかにその通りだったなぁ。頼りないなぁあのおじさん)」
おいおい、ボロクソ言われてるな。悔しいが、たしかに俺は何も言えなかった。正直、圧倒されてたからね。逃げられるならすぐにでも逃げたかった。うん、唯斗くん。君は頼りがいのある男の子だ。「元」神をも超越した存在だ。でもね、そんなに言われるとおじさん、泣いちゃうよ。
耐えきれず、晴人くんの方を見る。勢いで「潜入」を使う。
「(頼りねー)」
あれ、涙が……。
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