神様と女神②
言ってしまった……。さてどう転ぶ?
もしそうである場合、そんなわけないじゃないですかと否定してくるに違いない。なにしろ、いきなり「女神かい? 」と聞いているのだ。変態である。
そして、怖いのはそうでない場合。こちらもまた、何言ってるんですか? と不審がられるに違いない。変態である。
うーん、どっちにしても変態か……。
聞くのはちょっと時期尚早だったか……?
「……神山さん、なぜそれを……?」
めちゃくちゃあっさり白状した。凪沙ちゃん、優しいだけじゃなく、嘘も付けないのか……?
「あ、いや……。実はさ……」
口ごもっていても仕方が無いため、俺の考えを凪沙ちゃんに全て話さなければ。しかし、まずはこれを言わなければならないだろう……。
「僕は天界の元神様なんだ」
「そうだったんですか!? 全く気が付きませんでした! なんであの時、ゴミ箱なんかに入ってたんですか?」
「それはね……」
ここから、俺が下界に落とされた理由から、トラックの軌道の件までの全てを凪沙ちゃんに話した。
凪沙ちゃんは何か悟ったような、しかし終始黙って俺の話を聞いてくれた。
「……なるほど。その神楽さんという方に騙されて、代わりに神山さんが下界に落とされたんですね。それで今天界に戻るために情報を集めていたと。しかし、トラックの軌道の件だけは食い違いが生じたから、それを解消するための証人が必要になった。その証人が私というわけですね」
「そうなんだ。それで、トラックの軌道を左側に変えたのは凪沙ちゃんなんだね?」
「その通りです。天界でそんなことが起きていたなんて全く知らなかったのですが、私はとにかく自分と唯斗くんを守らなければならなかったので、あの時はトラックの軌道を変えることに必死でした。だから向きまでは意識していません。けど、今思い出してみると、確かに左側に軌道を変えていますね」
「やっと全てが揃った! 凪沙ちゃんを証人として天界の裁判所に出向けば神楽に勝てる! 凪沙ちゃん、すこし協力してくれないかい? 時間は取らせないよ。ただ少しの間証人として天界に着いて来てくれるだけでいいんだ!」
「けど、天界にはどうやって行くんですか? 手段がありませんよ?」
「勘解由小路さんを知ってるよね? 花串の常連さんの。実はあの方も、天界の元神様なんだ。本当の名前は勘解由小路さんじゃなくて神村さんなんだ。しかも、神村さんは元天界の裁判官なんだって。こんなに心強い味方いないよ。神村さんが天界と通信する手段を持っているから、天界に行く手続きなんかもやってくれるかもしれない!」
「そうなんですか!? それも全然気が付かなかったです……。私たちが気付いていないだけで、実は周りには元神様や女神がたくさんいるのかもしれませんね!」
「俺だって、神村さんはもちろん、凪沙ちゃんが元女神だっていうことも全く気が付かなかった。けど、なにはともあれこれで天界に戻れる情報が集まった! 凪沙ちゃん、協力してくれるかい?」
「神山さんは……その……、この街に留まっておくという選択肢はないですか……?」
痛い所を突かれてしまった。この街に愛着が湧いた、とまではいかないが、正直留まってもいいなと思ったことは何度もある。しかもその想いは少しずつ大きくなっていった。
しかし、俺は天界に戻りたい。天界で余生を過ごしたい。なにより、不本意な形で下界に落とされたのが納得行かない。
ごめんよ凪沙ちゃん……。
「鳥居家のみんなにはかなりお世話になったし、この街のみんなも優しいから凄く暮らしやすかった。でも、僕は天界に戻るために情報を集めてきたんだ。神楽にもガツンと言いたいしね。だから、申し訳ないけどこの街には留まれないかなぁ」
「そうですか……。でも、神山さんにこの街を気に入ってもらえて嬉しいです! といっても、実は私も天界に落とされてから住み始めたので、ここで生まれ育ったわけではないんですけどね」
「でも、凪沙ちゃんはクビになった俺とは違って、ちゃんと設定をしてもらった上で天界に降ろしてもらってるんだよね? 」
「そうです。私はクビになる前に自分から天界を降りると申し出たので、一応この町で生まれ育ったという設定にしてもらった上でこの街に降ろしてもらっています。だから、私は生まれも育ちもこの街ということになっているので、ここは紛れもなく私の生まれ故郷なんです! 鳥居家のみんなには、無理やり私の思い出が組み込まれた形になって申し訳ないと思ってるけど、それでも鳥居家は私が生まれ育った大切な家族なんです!!」
「そうなんだ……。凪沙ちゃんは本当に鳥居家とこの街が好きなんだね! 鳥居家での思い出が本物なのか、作り物なのかなんて関係ない。凪沙ちゃんは紛れもなく、鳥居家の一員だよ。そして、期間は短かったけど僕も鳥居家とこの街が大好きだ。だから凪沙ちゃんは僕の分まで、これからも鳥居家の一員として、この街の住人として、これからも楽しく過ごしてほしい。僕の分まで過ごしてくれるかい?」
「もちろん、そのつもりです! でも……」
「ありがとう! 本当に凪沙ちゃんは優しいね。それじゃあ神村さんに連絡しないと」
凪沙ちゃんが何か言いかけた気がしたが、俺は一刻も早く神村さんに連絡しなければならない。良かった! 凪沙ちゃんの理解が早くて!
神村さんは毎日のように花串へ顔を出してくれていたため、すぐに凪沙ちゃんの件を伝えることが出来た。
「なんと! 凪沙ちゃんも元女神だったか! 私も全く気が付かなかった。凪沙ちゃんがトラックの軌道を左側に変えた張本人だったとはね。では、明日私の家に来てくれないか? また天界と通信を繋いであげよう」
「ありがとうございます! 凪沙ちゃんに明日用事がなければ一緒に行きます。また連絡しますね」
今度こそ、今度こそだ。神楽よ。首を洗って待っとけよ。
「凪沙ちゃん。明日、少しだけ時間をくれないかい? 神村さんが天界に通信を繋いでくれるみたいなんだ」
「どうしても天界に戻りたいのですね……? ……わかりました。準備しておきます」
「準備って、そんな大掛かりなことではないよ。ただ証人としてそこにいてくれたらいいんだから。あ、でも天界に行くことになるかもしれないのか。久しぶりの天界だなぁ」
「……れないんです」
「え?」
凪沙ちゃんがなにか言った気がしたが、天界に戻れるかもしれないという興奮でよく聞こえなかった。
すると、凪沙ちゃんは大きく息を吸って、一気に話し出した。
「証人として一旦天界に戻ると、もう二度と下界の同じ場所には戻れないんです!」
「……え?」
「だから! 天界で証人としての役目を終えて再び下界に戻るときは、鳥居家の一員としてはもちろん、もう二度とこの街の住人には戻れなくなるんです!!」
「……えぇぇぇ!?」
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