神様と神様④

「下界にいても、天界と繋がる手段があるということですか?」


「うん、あるよ。あ、まぁ正確に言えば、私にはあるけど君には無いというべきかな」


「俺には無いんですか?」


「君と私には決定的な違いがあるだろう? それが関係しているんだが、分かるかな?」


「決定的な違い? 名前とか?」


「まぁ神山と神村だからね、違うよね。だけどそれじゃない。もっとこう、この話に関係があるというか……」


「分かりました! 同じ天界の裁判官でも、神村さんは天界の神様を裁き、僕は下界の人間を裁く、という点ですね!?」


「う、うん……、まぁ確かに違うよね。この話にも関係あるしね。だけど、それじゃないなぁ。ほら、どうして2人とも下界にいるか、その理由とか……」


「うーん……、あ! なるほど! 神村さんは好き好んで下界に来たけど、僕は別に好き好んできたわけじゃ……」


「違う。君はバカか。バカか君は。私は退神という正規の手続きを経て下界に降りているが、君はクビという罰によって下界に落とされている、ということだ。少し考えれば分かるだろう、このとんちんかんめ」


 そこまで言わなくても良いではないか……。たしかに俺はバカだけどさ……。


「正規の手続きを経て下界に降りている場合は、別に懲戒を食らって降りているわけではないため、一応天界と通信する手段を渡されるんだ。下界が嫌になったらいつでも天界に戻ることができるようにね」


「では、僕の場合は罰によって下界に落とされているから、天界と通信する手段も、戻る手段も渡されていないということですね?」


「簡単に言えばそういうことだ。だから、君の場合には、天界と通信できる手段を持つ私を含む元神様に出会わない限り、絶対に天界には戻れない」


「どんなに情報を集めても、天界にいる奴に文句を言いたくても、自分ひとりでは無理だったということか……」


「しかし、逆を言えば元神様に出会うことさえできれば、君は天界に戻るチャンスを得られるということだ。現に君はこうして元神様である私と出会うことが出来た。幸運なことに、元天界の裁判官である私にね」


「非常にありがたい話です……。ちなみに、下界で神様同士が出会う確率ってどの程度なんですか?」


「出会うこと自体は難しくない。ただし、天界でお互いに顔を覚えていたらの話だが。しかも、下界に降りた元神様は、私のように天界での生活を忘れたいと考える者が多い。そのため、そういう者というのは、下界で元神様に出会ってもあえて関わらない場合がほとんどだ」


「では神村さんはなぜ、僕に協力してくれるんですか? 天界での生活を全て忘れて下界で生活したいはずなのに」


「まぁ、元裁判官の癖のようなものだ。疑わしき事柄は納得が得られるまで調べ、それで困っている者がいれば救ってやりたい。たとえそれが元神様でもね、神山くん」


「本当にありがとうございます。いくらお礼を言っても足りません……」


「まぁまぁ、まずはその例の事件についてはっきりさせることが重要だ。僕はあくまで弁護人だから、君が神楽くんと直接話をすると良い。君もその方が良いだろう?」


「はい。神楽のやつに、先輩をコケにしたお返しをお見舞いしてやろうと思います」


「通信手段はこれだ」


 神村さんは1台の薄い機械のようなものを取り出した。これ……は……? スマホ? 普通のスマホではないか……? 


「「これはスマホではないか?」という顔をしているね? というより、それ以外に例えようのない顔をしているね。それとも、「スマホではないか、バカかこの人は」という顔かな? 失礼だな君は」


 勝手に想像して勝手に怒らないでくれよ……。


「協力してくれる方に対して、バカかこの人はなんて思うわけないじゃないですか! ただ、僕には普通のスマホにしか見えないのですが、これで本当に天界と通信できるのですか?」


 きっと普通のスマホに見せかけておいて、物凄い手段で天界と交信するに違いない。いや、絶対そうだ! 


「これは普通のスマホと何ら変わりはないよ。ただ、天界に繋がる電話番号が登録されているのを除いて、だがね」


 とてもアナログな方法だった。電話番号て。何番から始まる電話番号だよ。


「これで天界に電話し、神楽くんと繋いでもらおう。そこで君が集めた情報を元に、言いたいことをすべて言いなさい。何か困ったことがあったら、私に代わると良い。まぁ、君は自分自身で決着を付けたいと思うけどね。幸運を祈るよ。少しでも天界に戻れる可能性が高まるといいね」


「何から何までありがとうございます。もしも上手くいったら、いつか謝礼させてください」


 本当に神みたいな方だな、神村さんは。事実、神だけど。

 俺は一生この方に付いて行くぞ。天界に戻れたとしても、神村さんには定期的に連絡することにしよう……。


「謝礼は……、そうだな。君の力で、居酒屋「花串」の飲食代をタダにしてくれたら良い。あと、凪沙ちゃんを若妻に貰おうかな。凪沙ちゃん、いいよねぇ。優しいだけでなく、若いピチピチな……」


 変態クソジジイじゃないか、あんた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る