出掛ける神様③

 

「晴人もまだ学生だから頻繁には買えないので、たまに自分へのご褒美で買ってたり、誕生日やクリスマスなどに私や親が買ってあげたりしてるんです。物を大事にする子だから、長く綺麗に使ってくれるんですよ」


 そうなのか。今まで接してきた印象からそんな雰囲気は微塵にも感じなかったけど、その話を聞くとちょっと印象が良くなった気がする。ちょっとだけね。


「これは美鈴ちゃんから聞いたんですが、晴人は自分が使っているゴッドウィンの物が汚れたり、壊れたりするのを極端に嫌うらしいんです。よっぽど好きなんでしょうね」


 晴人くんと美鈴ちゃんは、しばらく特定のコーナーに立ったまま動かなかった。買うか買わないか相当悩んでいるのだろうか。

 すると、もうあまり時間がないからと凪沙ちゃんがそそくさと近付いていった。


「二人とも申し訳ないけど、この後の夕ご飯の時間も考えるとそろそろいい時間だから、もし決められるなら早めに決めてね」


「分かった。でももう少しだけ話し合いたいから、終わったらすぐ行くよ」


 そう言った後、晴人くんはなぜか俺に対して冷たいような蔑むような、とにかくあっちに行ってくれと言わんばかりの視線で睨みつけてきた。やっぱりこの坊主は……!


「晴人、美鈴ちゃんにあの限定キャップを買ってあげたい様子でしたね。あれなかなか再販しないし、再販してもすぐ売れてしまって転売されてしまうんです。こんなチャンス滅多に無いから、どうしても買ってあげたいんでしょうね」


「でも学生にとってはなかなか高い買い物だね。お互い学生なんでしょ?美鈴ちゃんも、そのキャップが高価だっていうことは十分分かってるんじゃない?」


「きっと晴人は美鈴ちゃんに良い所を見せたいんです。美鈴ちゃんからよく聞くんですが、晴人は美鈴ちゃんといる時、カッコ悪いところや弱みなどを極力見せないようにしているらしいです。普段全然そんなことないのに。それくらい、美鈴ちゃんのことが好きなんでしょうね!美鈴ちゃんは、別にどんな晴人でも好きみたいなんですが、その姿が健気で微笑ましいから気付かないふりをしているみたいです」


 これが下界でいう「青春」というやつか。おじさんには眩しすぎる。なんて甘酸っぱいんだ……。


 そんなことを話していると、店員さんが徐に拡声器を使って話し出した。


「只今より、数量限定の一番くじの販売を始めます!ハズレはありませんので、この機会でぜひ、ゴッドウィンの限定商品をゲットして帰ってください!Tシャツやキャップも取り揃えております!」


 このアナウンスに晴人くんが反応した。美鈴ちゃんに限定キャップを買ってあげるには、学生にしては金銭的になかなかキツイ。

 しかし、一番くじの値段は1回3,000円。限定キャップが1個10,000円。もし当てることができたら……。


 同じことを考えていたのか、晴人くんが一番くじが行われている場所へ向かっていた。よほど人気のイベントなのか、他にも多くの人がくじを求めて歩き出している。

 さすがブランド店ともあって、くじの商品のラインナップが凄い。全部で5等まであり、3等が限定キャップ、1等は一番人気の限定Tシャツ。Tシャツが20,000円もするのか……。


 数に限りがあるが、その分どの商品も当たりやすい様子だった。晴人くんは先に引く人の様子を見ていた。5等や4等を中心に当たっていたが、一人は2等を当てていた。

 なるほど、これによって3等が出てしまえば諦めたらいいし、逆に3等が全然出なければ積極的に引けば良い。

 晴人くん、なかなかの策略家ではないか。


 果たして、5等や4等はある程度、2等も2回ほど当てられていた。ということは、今、3等が出る確率が最高潮に達しているのだ。いける、いけるぞ。


 ……ここは俺の出番だ。「元」神様の力を発揮する時ではないか。

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