下界での出会い
「大丈夫ですか?」
視界がはっきりしてきた。俺に声を掛けてくれているのは、若い人間の女性だ。よく俺に話しかけたな。外のゴミ箱に半身突っ込んだ50過ぎのおっさんだぞ。それも若い女性が……。
「とりあえず出ましょう! 引っ張りますよ!」
「あ……、いや……、大丈夫です! 自分で出てこれます!」
とりあえずゴミ箱から出よう。こんなことで手を貸させるのは恥ずかしい。それも若い女性に。
「大丈夫ですか? 近くを通りかかってたら、ゴミ箱から上半身を出した方が見えたので……。あの……、失礼だったら申し訳無いのですが、捨てられたんですか……?」
およそ初対面にする質問ではない。きっと無垢なのだろう。
まさか、自分は元神様で、天界から降りてきました、なんてことは言えない。言ったところで信じてもらえないだろう。
「私、実はホームレスでして。いや、自ら望んでホームレスになったんですよ? べ、別に強がっていないです。その、なんというか、現代社会への反抗というか、その類です。なにはともあれ、お恥ずかしいところをお見せしてしまい申し訳御座いません」
「そうなんですね。いえ、大丈夫でしたら安心しました。ところで、すごい身なりをされていますね!」
え? あ、しまった。天界にいた時のまま下界に降ろされてしまったんだ。ゴミ箱に半身突っ込んだ50過ぎのおっさんに、さらに仏が着ている古ぼけた着物というレアアイテムが追加されてしまった。通報されてもおかしくないだろう。この子が無垢で助かった。
「こういう服が好きなんですよ、動きやすくて。ホームレスはいつ外敵から襲われるか分からない、野に放たれたウサギのようなものです。だから、機敏に動くことのできるこのような格好をしているのです。もちろん、自ら望んでですよ? 別に強がっていないです」
「そうなんですか……。でも、このままここにいると死んじゃいますよ……? 寒くなってきてますし……」
そうか、夏が終わって寒くなってきてるのか。下界に降ろされた事実で頭がいっぱいだったが、少し冷静になると、肌寒いことに気が付く。早いとこ宿を探した方が良さそうだ。
「早いとこ雨風が凌げる所に身を移します。色々とご心配をおかけして申し訳御座いませんでした」
ぐぅぅ。あ。腹が鳴ってしまった……。そういえば神楽の件から何も食ってなかったな。
「腹が鳴っちまいました。逆境に強いホームレスでも、お腹は空くものです。しかし私は大丈夫。車のガソリンメーターが空を指していてもしばらく動くことができるように、私はお腹が空いてもしばらくは動き続けることができるのです」
若い女性の手前、格好悪い所は見せられまい。天界のシティボーイと呼ばれたこの俺。下界でもビンビンに見せつけてやろうではないか。
ぐぅぅ。きゅるるぅ。ぐぅぅぅ。
「私の家に来ますか? おにぎりくらいなら提供できますよ!」
「い、いいんですか?」
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