番外編・神様とクリスマス②

「お嬢ちゃんや。俺が……じゃなかった、ワシが君に雪のプレゼントをしてあげよう」


「本当に!?サンタのおじさん、雪降らせられるの!?」


「ただし、すぐには無理だよ。サンタのおじさんも、その力を出すために準備が必要だからね。そうだな、また1時間後くらいに来なさい。その時は君の頭の上にもうっすらと積もるくらいの雪が降ってるよ」


「本当に本当!?サンタさん、約束だよ!?」


「あぁ、いいとも。ワシと君との約束だ」


「わーい!じゃあ、また後でお礼を言いに来るからね!」


 サンタのおじさんこと俺は、はしゃぐ女の子と指切りをした。

 そして女の子は、本当にそんなことが出来るのか心配そうに俺の顔を見るお母さんの手を引いて、どこかへ行ってしまった。


「だ、大丈夫なんですか?あんな約束して……」


「大丈夫大丈夫。今日は元々雪の予報だったでしょ?風も少し強くなってきて、寒さもだんだん増してきてるから、もう少ししたら降るんじゃないかな?」


 俺が今から、神様の天候を操作する能力の1つ「雪降らし」を披露するなんて絶対に言えない。

 だから、もうすぐ雪が降りそうな感じのことをそれとなく凪沙ちゃんに伝えた。本当は風の強さも寒さも変わっていない。でも大丈夫。凪沙ちゃんなら信じてくれるから。


「本当ですね!言われてみれば、さっきより風が強くなった感じがするし、寒さも増してきた感じがします!」


 ほらね。凪沙ちゃんはこういう所があるから魅力的だ。ただ、将来変な男に騙されないかが心配だ。


 さて、ぼちぼち雪降らしの力を発揮しなければ。仕組みはシンプルで、今自分がいる場所で雪が降っている様子を頭の中に描き出し、それと同時に雪という天候を引き寄せるイメージで強く念じる。すると、少しずつ天候が雪へと変わっていくだろう。

 女の子には1時間後と伝えたが、それは余裕を持たせるための時間設定である。天界にいた時よりは力は落ちるものの、まぁ40分くらいあれば徐々に雪を降らすことが出来るだろう。


 それからしばらく、俺はサンタの格好でお菓子を配りながら、雪を降らすための準備をする。

 雪が降っている様子……。雪という天候を引き寄せる……。雪が降っている様子……。雪という天候を引き寄せる……。


「神山さん、すいませーん!あちらのテーブルにこの飲み物を運んでくれませんか?ちょっと忙しくなってきて、手が回らなくなっちゃいまして」


「あ、はーい。あっちのテーブルだね?」


 凪沙ちゃんから手伝いを頼まれた。俺はサンタの格好のまま、飲み物を指定のテーブルまで運ぶ。

 こんな寒い時にロックでお酒頼むかね。あ、でもあれか。寒い日に温かい部屋にいて、アイス食べたくなる時あるもんな。あれと同じ感覚なのかな?お客さん、めちゃくちゃ厚着してるし。


 ロックのお酒をテーブルに運んだあと、改めてサンタの格好でお菓子を配りつつ、雪を降らせるイメージをする。

 雪が降ってる様子……。雪という天候を引き寄せる……。ロックのお酒……。雪が降ってる様子……。ロックのお酒……。雪という天候を引き寄せる……。ロックのお酒……。


 ロックのお酒邪魔だな。寒い日にあんな冷たいもの運んだら、そりゃ印象に残るわな。これではまるで、雪じゃなくてみぞれだな。あはは。


 ポツン。ポツン。


 頭上から冷たいものが降ってきた。そろそろか。


 ポツン。ポツン。


 ポツン?雪にしては重量があるな。


 ポツン。ポツン。


 ……。まずい。これ雪じゃなくてみぞれだ……。

 もう1度イメージし直す。雪が降っている様子……。ロックのお酒……。雪という天候を引き寄せる……。ロックのお酒……。ロックのお酒……。ロックのお酒……!


 イメージすればするほどみぞれが強くなってきた。まずいぞ、実にまずい。まだ時間はあるか?


「神山さーん!ちょっと雨よけを立てましょうか!」


 凪沙ちゃんに呼ばれ、俺を含めて鳥居家全員と美鈴ちゃんで、各テーブルとその周りに簡易的な雨よけを立てる。

 俺はその間も必死に雪をイメージする。雪が降っている様子……。雪という天候を引き寄せる……。ロックのお酒……は一旦頭の外に置き。雪が降っている様子……。雪という天候を引き寄せる……。


 念が通じたのかみぞれが少しずつ雪へと変わりつつあった。ここからは、水と氷と雪のせめぎ合いである。頑張れ雪。負けるな雪。


 すると、さっきまで対して気にも留めていなかったイベント会場で流れているBGMが気になり出した。

 このBGMのジャンル、理由は分からないけど、今の自分は思い出さないほうがいい気がする。でも、何故か気になる。

 なんだっけ……?この、エレクトリックベースにドラムとシンバルを組み合わせたドラムセットによるパーカッションによって支えられた、単純明快なビートにも関わらず不思議と体がノッてくるこの音楽のジャンルは……。


 ロックミュージックだ。ロックだ。ロックのお酒だ!


 先程まで雪が優勢を保ちつつあった天候が、完全に氷の粒となり、やがて再びみぞれとなってしまった。


 そこへ、どこかのお店で貰ったであろう紐付きの風船を片手に持ち、もう一方の片手をお母さんに握られた姿で、さっきの女の子がやってきてしまった。タイムリミットだ。


「サンタさんの嘘つき」




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