第6話
――小牧ちゃんが、帰ってきた?
「…………どういう意味だ」
理解しかねて、佐山は低い声で呟く。まさか、不死者と化した小牧が、それでも皆のもとへ帰ろうと、拠点まで戻ってきたとでもいうのか――? 佐山の脳裏に、あまりに悲しい不死者の姿がイメージされたが――
「俺にもわからねえんだよ! でも『奴ら』になったとかじゃなくて、普通に生きてるみたいなんだ! あと、誰か知らない男も連れてる!」
「!?」
色々と突っ込みどころが多い。
が、それ以上問答を続ける前に、橋の方へ全力ダッシュする者がいた。
酒寄だ。顔を見合わせた佐山と一ノ瀬も、そのあとに続く。
若者の説明は要領を得ない。自分の目で確かめる必要がある、と――
†††
「やっほー! みんなー! 帰ってきたよー!」
橋の中ほどから、少女と青年が手を振りながら歩いてくる。
ダウンジャケットにジーパン、腰のベルトにはホルスター。短めの髪をスカーフでまとめたショートポニーテール。そして屈託のない笑顔。
間違いない、小牧だ。
「小牧ちゃん?!」
「噛まれたのになぜ……!?」
「レ――ナ――ァァァッ!!」
驚愕する者、混乱する者、号泣しながら歓喜する者。バリケード前の見張り台ですし詰めになりながら、やいのやいのと皆が騒ぐ。
一ノ瀬ですら唖然として、魂が抜けたような顔をしていた。佐山は、自分だけは冷静でいよう、と深呼吸して気持ちを落ち着ける。
「隣の男は誰かしら……」
「わからん、初めて見る顔だ」
いや、佐山だけではない。鬼塚も冷静な、警戒心を忘れていない顔をしていた。そのことに頼もしさを覚えつつ、小牧の隣の青年を注視する。
かなり整った顔立ちの青年だ。しかし奇抜な格好をしている。錫杖に着物とも法衣とも知れぬ不思議な仕立ての白い衣。修験者のように見えなくもないが――場違いなほど柔和な笑顔もあいまって、妙にうさんくさい。
噛まれたのに生還した(ように見える)小牧と、謎の青年。より怪しいのはどちらだろう。
「レナ!? 本当にレナなの!?」
バリケードから身を乗り出さんばかりに、半狂乱で叫ぶ酒寄。別の若者が後ろから服を引っ張っていなければ、そのまま外に飛び出てしまいそうな勢いがある。
「みっちー! ごめん心配かけて! レナですよー! 奇跡の生還、果たしちゃいました!」
ぶい! とピースサインをしながらレナ。
あのノリ、あの明るい口調。間違いない――小牧だ。
「……んんぅぅぅ、レナあああぁぁぁっっ!」
「ちょっと待ちなさい」
佐山が前に出た。感極まって、いよいよ飛び出そうとする酒寄を、鬼塚に目配せし後ろから羽交い締めにしてもらう。
「ちょっと! なにすんの! 離して!」
「感動の再会に水を差してすまない。……小牧ちゃん、本当に君なのか? 疑うようで申し訳ないんだが……」
「あ~……まあ、そうなりますよねえ。わたし噛まれたもんね」
心底申し訳なさそうに問いただす佐山に、小牧は大して気にした風もなく、当然とばかりにうんうんと頷いた。
「佐山さん、ここ見てください! わたし噛まれましたけど!」
バーン! と背後に効果音が見えそうなノリで、ジャケットを脱いで上腕を見せる小牧。
「傷、治りました!」
「傷が、治った……!?」
驚愕。オウム返しにする佐山。一ノ瀬たち探索班の様子を伺うと、全員目の玉が飛び出そうなほど驚いていた。小牧が見せている上腕部、そこが傷口だったのは間違いなさそうだ。
「ちょ、ちょっと待って小牧ちゃん! 傷が治ったってどういうことなの!?」
「いや、治ったっていうか……正確には、治してもらったんですけどね、この人に……」
医療関係者ゆえか、凄まじい食いつきを見せる鬼塚に、小牧がちょっと引き気味で隣の青年を示す。
「小牧ちゃん、その隣の方は……?」
「よくぞ聞いてくれました! わたしの命の恩人です!」
もう本当に凄いんですよ! となぜかドヤ顔の小牧。
「わたしが噛まれて、『奴ら』に取り囲まれて、もうダメだ! 死ぬしかない! ってところで助けてくれたんです! もうマジで救世主ですから! 救いの神です!」
「はっはっは、神ではありませんよ、神の使徒です」
興奮気味な小牧に、青年が朗らかに笑いながら注釈を入れる。好青年な見た目を裏切らぬ、穏やかで優しい口調だったが、その発言内容に全員が「ん?」と固まった。
「あ、そうだった。ごめんごめん」
皆の反応に気づくことなく、てへ、と舌を出しながら謝る小牧。
「いえいえ、こちらこそ細かくてすみません。では改めて……皆様、初めまして」
皆の方に向き直り、青年が胸に手を当てて一礼する。
「私は
全員が思った。なんかやばいやつが来た、と。
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